第14話【タタカイ ハ コレカラ ?】
朝起きたら、また牢屋スタートだった。
状況にあっけらかんとしていると、何やら紅い粘液が額より降りてくる。それがトマトケチャップかはたまた別の何かなのかを確認しようにも、枷の金属が幾分か豪勢になった上に鎖まで巻き付けられていたので、なんとなく確認できずにいた。すると、ゴブミチさんが話し出す。
「いやぁなんというか、お前さん一昨日は大変だったなぁ」
一昨日……はっ!?そうだ、やっと思い出した。確かに一昨日は……
滝で天女に出会い、そして二人は結ばれる。
……そのはずだったのに、亡霊に阻止されて、俺は深淵へと落ちた。
だが、気がつくとその隣にはあの時の君。まさに運命!これぞ天啓!して、その後は……
君からの一言「うっゔぇ」
から、俺のルパンダイブ。
→死刑
再度復活、からの拘束、最後一発。
お会計20G。
そうかそうか、そうだったなぁ。俺はまた一文無しになったのだったなぁ。……ゴールド・ブレイク。
「お?どこか行くのか?」
ゴブミチさんに声を掛けられた、仕事だからというわけでもないだろう。単純に気遣ってくれている声色が、なんとも俺の心に染み渡った。
「ちょっと、良い稼ぎがあるのさ」
言うと、鎖を肩に掛けて石造りの廊下を歩いて行く。さて、戦闘開始といこうじゃないか!
……そういえば、寝ている間にスキルが一つ増えていたな。
スキル【
対象の"ステータス"が分かる上位鑑定スキル。ただし、この効果は対象が自身の好みのタイプであった場合のみ発動する。使用中は片目が桃色に染まる。
使い道、あるのだろうか?つまりこれは鑑定成功イコール告白みたいなものではないか、バレたら公開処刑じゃないか!?
……まあ、いいや。どうせこんなマイナースキルバレるわけ無いし。
「さぁ〜てと、じゃ、ハントしにいきますかねぇ」
ポケットに何故か入っていた青色のハンカチを軽く握り、俺はターゲットを捜索し始めるのだった。
【鬼笑茶屋】
「いやぁ、三日目ともなると随分慣れてくるものだな」
お茶を啜り、気が向いたときに団子を食む。滝が奏でるけたたましい独唱も相まって、そして話し相手もそこにいるからか、その時間は私にとっての至福となっていた。初日の給仕服から派生したのか魔王様が古今東西の衣装を大量に持ってきてくださるのは少し怖いけど、それでもこの時間は楽しい。書類の山で精神的な修行を積むことの数京倍楽しい。
ちなみに、今日の衣装は海賊服。魔王様はゴスロリ服で、機械は軍服だ。パリエーション豊富過ぎるな……
「魔王、マスターから貰った装甲を返却しやがれでごさいます」
「フッフッフッ、ならばファッションレベルの高さで競おうではないか。勝てれば装甲は返してやる」
「講義します、服はあなたが持ってくるのだからこの勝負は不公平であると判断。代案として魔法での勝負を提案します」
この喧嘩も、最早日常になったなぁ。こんな平和な日々がずっと続けばいいのに。微かな笑みを浮かべて、私はお茶に手を付けた。……その時だった。
「邪魔しまーす、魔王いる〜?」
ーーー奴は、突如として現れた。
「……ユウシャ、何しに来た」
全力の眼力で威嚇、しかし奴はいけしゃあしゃあと澄まし顔で佇んでいる。……その視線に何か別の意味があるように思えたのは、きっと勘違いだ。
一方、ユウシャが来たにも関わらず喧嘩を止めない魔王様と機械。最初は店への配慮があった魔王様も今ではすっかり暴徒と化して(上司への発言とは思えない)、大魔法を普通に構築するようになってしまいましたが、幸いイベント中断がナイスタイミングで起こるおかげで危機は免れています。……で、つまりこれは私がユウシャと話す流れか?
「はぁぁぁああ」
非常にロングトーンの溜め息が溢れる。
「なんの用だよ、変態」
「うん、そのキレのある言葉遣いも大好物さ!」
「……え?だから、なんの用??」
会話が素で繋がらない、ゴブリンは知能ステータスが低いのだが、それで繋がらないとなるとユウシャのINTはゴブリン以下ということになる。本当にこいつに世界を任せてよかったのか、人間の王よ?後悔することになっても知らんぞ?
「……あ、そうそうカワイイが過ぎて忘れてたけど、魔王倒しに来たんだった」
「は!?ユウシャ、そういうことなら私を倒してからにしろ!魔王様には皮膚片一個ふれさせぬ」
「え!何、倒す?押し倒していいのですか!!」
「バーカーヤーロー!? お前は頭ん中まで花で出来てんのか!??」
こちらを見つめ涎を垂らしながらも、棍棒はしっかりと魔王様へ向けるユウシャ。らしいところもあるのだろうが、ユウシャらしからぬ動作が多すぎてユウシャだということすら忘れそうになる。ただの変態に思えてくる。
「なんじゃ?ユウシャも吾輩と戦いたいのか!大歓迎、いつでも来るがいい!」
戦いの気配を察知して、戦闘狂の血が流れているかもしれない魔王様が浮かれ出す。正直、そのフォローは素直にありがたいのだが、今回は戦闘を避けられないなという絶望めいたものも一緒くたに流れ混んできて少し目眩がした。……魔王様、せめて私に被害がない程度でお願いします。
「では、最初どっちから攻撃する?」
ユウシャが手を挙げて、多数決をとる学級委員みたいな張りのある声を響かせた。内容が内容なだけに「なに言ってんのこいつ?」とならざるを得なかったのは、私だけだろうか?……私だけなんだよな、この場で正常なのは。
「うむ。なんとも物語に適していないターンバトル制であるからな、可笑しな展開にもなるであろう。……吾輩は強いので、そなたからで良いぞ!」
「分かった。けど、俺もなかなか強いんだぜ!なんとレベル9になった」
「……吾輩、レベル65」
……ユウシャの頬に、一筋の汗。どんまいユウシャ、骨は拾ってやるよ。
「俺は、ユウシャだ。ユウシャってのは、どんな状況でも諦めない者だろう」
「ニューマスター、この状況は諦めても良いと判断します」
ユウシャに投げかけられた、仲間からの慰めの言葉。しかし3日一緒にいたから分かってしまう、機械のあの表情は嘲笑いだ。恐らく心の中では「雑魚乙w」とか思っているのだろう。なんとなく確信できた。
「雑魚乙w、プハァ」
「お前は何なんだよ!?フォロー入れるなら最後まで貫きとうせ!」
……マジで言うとは思わなかった。もしかしたら、機械は結構正直モノなのかもしれないな。
「あ、そうそう。新スキルゲットしたんだ、なかなか珍しいものだし見てくれよ」
眼帯を巻いて、包帯を巻くユウシャ。戦闘前から満身創痍なのだろうか?体中が包帯で埋め尽くされている。
「爆ぜよリール、弾けよシナモン!」
ぎりぎりアウト!それはダメだ!
……はて、何かがダメな気がしたが何がダメだったのだろうか?自分は何を知っていたのか、それさえも疑わしく感じてしまう。とりあえず、リスペクトという言葉が頭に浮かんだので発してみた。うん、いい言葉だ!
ユウシャの瞳が桃色に輝いた。これもスキルの効果なのだろうか?
「……そなた、ま、まさか!?」
魔王様が動揺している。そんなに凄いスキルには見えないけど、何が始まるんだろ?
「魔王、レベル65経験値11623筋力560……って、あ、あれ?」
突如赤面する二人。もだえ苦しむ二人。一体何が起こったんだ!?まさか精神攻撃系統のスキルか!?
「ユウシャ、面白いなっ。はぁはぁ」
「魔王こそ、赤くなって似合ってねーぜ、いつもの威勢はどうしたよ。まだ、俺は戦えるっぜ?」
……両者、何故か満身創痍。心の傷、とでも言うべきものか、それを抱えて床に伏しやはりもだえ苦しんでいる。何がしたいんだろう、このユウシャと魔王様?
「鑑定、スキル【桃色眼】と判定」
「「……」」
このあとメチャクチャ世紀末した。
10Gと一緒に貰える【ヒノキノボウ】が最終話でも全然登場しないのだが、どうすればいい?
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