第11話【ワナ ニ カカッタ !】

 さて諸君!我らの現状を聞き給え!なんとなんとユウシャ御一行様は現在、名前も無いような外れの獣道にてーーー


 「罠に掛かっております。お助けください」


 ヘマを踏んでいた。


 「助けが来る確率はゼロでしょう。ただでさえ人が通らないのに、魔物までいますから」


 「いや、そりゃそうなんだけど、こうなんかご都合主義とか主人公補正とかないわけ?ユウシャぞ、俺」


 そういえばユウシャになって良かった事って、一つでもあったか?まあ、強いて言えば美少女機械に出会えたことだろうけど、こいつ口悪いしなぁ。


 「ニューマスター、この状況を打壊する方法を考えやがり下さいませ。私は節電のためにスリープモードに移行します」


 「え、あっちょ……寝るなよ!?」


 機械っ娘、寝た。瞬でスヤァである、まるでどこぞの眼鏡みたい。これ以上言ったら22世紀の道具とかで消されるので一応やめておこうと思う、寝顔が凄く可愛い。

 ……というか無防備すぎねぇ?俺みたいな野蛮人の隣で眠るとか危ないだろ。容姿良いんだから少しは気をつけて貰いたいものだ。


 ーーーで、


 唐突に罠の解説、踏んだら作動する釣り上げ式の網。有名なやつだね、だいたい落ち葉の下とかが怪しい。引っかかった側の感想だと胃が飛び出すかと思った。三半規管もうちょっと鍛えようかな……。

 そして本題、罠があるからには仕掛け人がいます。その仕掛け人とかいうのが下にいるちっこい奴ら、緑の悪魔「ゴブリン」。緑の悪魔というとスーパーな配管工の64で出てくる不死のキノコを想像しがちだが、それはちがうぞ(大体の人は連想しない)。


 さて、目を逸らそうとしてきたことを見ましょうか。えっと……なんでアイツら"大鍋用意してんのかな"?


 「カシラ、出来やしたぜ準備。早速調理しましょうぜぇ!」


 「まぁ、待て。まずは捌くとこから始めるのさ、ヒヒヒ」


 ……あーと、ね。うん終わった。俺らはここで食べられてゲームオーバーなんだな。俺の肉は不味いので先にこの機械っ娘の肉を食ってくださいまし、きっと死ぬほど美味いですから。本当に死ぬかもだけど。


 「じゃぁ、いくぜぇ!!」


 終わったぁ、冒険終わった人生オワタぁ。できることなら豆乳鍋が良いなぁ、なんか優しそー。


 えい!


 包丁が飛来し網の方へ、あっガチでオワ……

 ……え?


 包丁は俺の頬をかすり、遥か上空へ。その先にいたのはとてつもなく大きな鳥、包丁はそいつに刺さった。下は何故か大歓喜だ。


 「よーし!作るぜぇ」


 残像が見えるほどの動きで鳥を捌くゴブリンたち、鍋は泡を溢し準備万端、またたく間に鍋は出来上って、取り分けられた一つが俺たちに出されてくる。


 「さぁ客人!くえ!」


 「えっ、いや降ろしてもらわないと食えません」


 ー10分後ー

 降ろされた、足枷はあるけど二人とも降ろされた。しかも飯ももらった、ありがたい。

 一応食レポすると、汁はまろやかな牛乳ベースで食べやすく、野鳥特有の臭みも揉み消してくれる良心設計。そこらへんに生えていた明らかにアウトな赤キノコ(ドクテングダケと同様の見た目)も案外いい味をしている。濃い味ではないが深い味であり、自然の食材を活かした料理と言えるだろう。まさに森の料理屋、いや緑の料理屋だ。


 「いや〜、美味いっすね」


 「お!分かるかユウシャ!我らの自信作ファンキークレイジーサタデー鍋は最高だろ!!なのにオークやオーガの奴らときたら薄味とか言いやがるんだよ、ひでぇよな!?」


 へぇ、ゴブリンって食にこだわる種族だったんだ。マンガ肉焼いてるイメージだったから、正直ギャップ過多で困るし、なにより優しいのが一番違和感あるな。もっとこう、蛮族的なキャラで来てくれたらユウシャムーブできたのに……とか言っちゃ真にユウシャじゃねーか、反省反省。


 「オークやオーガのことは分からないけど、俺はこういう料理もいいと思うぜ?」


 「は!ユウシャはやっぱりいい奴だ!!」


 こう、直球で褒めるのも褒められるのも久々だからなんか変な感じがするな。へへっ。


 「私が観測した模擬味覚情報によりますと、これはとても本当に破滅的に薄いです。料理とは到底言えない味なので作り直しを強制します。また、牛乳を抜くと美味しくはなるでしょう」


 「雰囲気壊すんじゃねえ!!?ほら料理長(カシラとか呼ばれてたやつ)固まっちゃったじゃん!どうしてくれんの!?」


 機械っ娘は平然と、その紫の長髪を指でもてあそびながら、無表情に、しかし目を絶対に合わせまいと背けた状態で呟き出した。


 「だって、牛乳嫌いなんだもん……」


 「好き嫌いするんじゃねえ!?」


 機械なのに、好き嫌い。そんな感情まであるコイツがどれほど高性能なのかを改めて痛感したと同時に、そんな機能を付け足したおじいさんとそれをこのタイミングで発動した機械っ娘への怒りが募りに募る。もう一度ぐらいブレイクしてもいいのではないだろうか?


 ちょんちょん


 肩を突かれたので、振り返る。機械っ娘への対処で精神を集中させていたから気が付かなかったが、どういうわけかゴブリンたちが陣を形成して取り囲んでいるらしい。


 「ユウシャとジョーチャン、カシラの料理侮辱した罪で牢屋いきや決定。捕らえる!」


 「……」


 10Gと一緒に貰える【ヒノキノボウ】じゃどうにかできない状況なのだが、どうすればいい?

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