第7話【キカイ ト ジジイ】

 【ナモナキ丘:推奨レベル5】


 俺は、ただ唖然とした。

 艶やかな肌に紫の髪、清潔感のある白いコートと幾何学模様の金属杖。そして繋がれた無数のケーブルーーー圧倒的なまでのカワイイ。


 フシュー


 ケーブルが外れて機械っ娘が目を開く。円い碧の瞳がとても美しかった。


 「どうじゃ、良いものが見れたじゃろ?」


 小屋の石畳が動いて、下からジジイいやおじいさんが出現する。どんな科学力だよそれ!?カッコよすぎだろ!!?


 「これは?」


 「あゝ、こやつはお前さんが昨日運んできた娘じゃよ」


 あぁ、ね。なるほど。


 「What?」


 「ハッハ!その反応を待っていた」


 え?失礼なのは重々承知で言うけど、あの錆の塊だったやつがか!?こんな劇的ビフォーアフターあるかよ!?


 「ゴーレムはコアさえ無事ならほとんど人形作りと変わらんからそこまで難しくないからの。ただ外装を作り直すのは知ってなければできんが」


 おじいさんは、少し悲しそうに言った。続く言葉に、俺は息を忘れた。


 「あの娘たちを創ったのは、儂じゃ」


 おじいさんは泣き出しそうな笑顔で、機械っ娘を見つめる。後悔、とも言えぬ名もなき感情がひしひしと伝わってきた。


 「あの娘たちを作り、貰った金でこの丘を買った。仕事の一環だったのだから、何も思いはしなかったが、しかし今になって思うのだ。せめて、終わりぐらいは作ってやれなかったのか、と」


 おじいさんは首を振った。「それすらも今はできんが」などと、諦めたことを言い始めている。


 そんなおじいさんの手を、いきなり動き出した機械っ娘が握った。小さいながらも力のある、無機質だが暖かい手。そしてーーー


 「マスター」


 グキィ


 おじいさんの手を180°曲げた。


 「いった!?なに、えぇなにぃ!」


 困惑するおじいさん。かくいう俺も何がなんだか分からねぇ。やっぱり、機械っ娘はおじいさんを恨んでいたのかね?


 「おあいこ」


 機械っ娘の無表情が和らいだ。


 「マスターは、私たちを創ったことすらも悔やまれますか?」


 「え?いや急になんじゃ、っていったァ!?」


 機械っ娘の指がおじいさんの手首に食い込んだ。うわぁ、いたそー。


 「わかったわかった話すから離してくれ!?儂はこんなことになるなんて思わんかったのじゃ、鉱山だっていつかは廃れるのに、それを予感していなかった。けど、身勝手な想い出ではあるが、お前たちを創り、お前たちと紡いだ時間は楽しかったと思えてしかたがない、言ったぞ?言ったから離してくれ!」


 機械っ娘は手首を離し、今度はおじいさんの頭に手を置いた。うわ、やべぇR18G《グロ》な展開くるか!?


 ・・・・・・サスサス


 聴こえたのは、とても優しい音だった。

 俺は、驚愕した。


 「な、なにするんじゃぁ!?」


 「マスターの頭をなでています」


 美少女機械がおじいさん、いやジジイの頭をなでている。なんだこの状況は?


 「マスター。マスターは、何故私たちが自機の心臓コアを破壊しなかったと御思いですか?」


 突然の質問に、おじいさんが無言になる。それは、応えにくい質問でもあったのだろう。応える気がないようにも見えた。


 「私たちはこの68年と349日の間、ずっとマスターを待っていました。理由などありません、ただなんとなくです。『意味の無いことをしろ』それがマスター、世界初魔術的感情回路製作者で在る最高の技術者メイクスから頂いた餞別でしたから」


 「・・・・・・くだらない言葉じゃな」


 おじいさんは、嫌そうに呟いた。申し訳無さそうに、の方が正解かもしれない。


 「お願いです、マスター」


 機械っ娘は思いっきりの笑顔で、笑いかける。


 「あの鉱山に今一度行って、みんなに合ってきてください。そして一発づつ殴られて来てください。女の子を待たせると、怖いんですからね?で、そしてーーー」


 ーーー私たちをマスターの手で、破壊してください。


 泣きそうなぐらい、女の子は笑った。


 「これが私の出した、最高に合理的な終結方法です」


 それは彼女たちにとってあまりにも酷で、あまりも現実離れした終着点だ。きっと彼女たちはそれを望んでいるのだろうし、覚悟もしているのだろう。けど、やっぱり何か気に掛かる、嫌な感じがしてならない。だから、もう部外者であることは重々承知だけれども、俺はたった一言だけ投げかけてしまった。


 「直せるなら、皆さんで暮せばいいじゃないですか?」


 それを聞いておじいさんは、笑った。嬉しそうにではなく、悲しそうにーーー苦しそうに。


 「金が無いのじゃよ」


 全体金色の鉱石でできた宝石だらけの椅子に、彼は腰掛けていた。本人、座った直後にそれを投げる。窓から宝の塊が無造作に放り出される光景は、コントみたいな面白さよりも俺の嫉妬を大きく煽りやがる。金持ちは金が無いとか言っちゃいけないんですぅ!


 「や、あの、住める土地が無いんじゃ」


 おま、丘を買ったって言うたやろ?


 「マスターに無いのは、時間です」


 俺の後ろに回った機械っ娘が、頭に手を掛けて囁く。額に三本指を当ててほか二本で正確に弱いところをマークしくるのは、どうしてだろうか?俺の時だけ対応違いすぎません?


 「流石じゃの、何でもお見通しか。そうじゃね、儂はあと数年しか保たん、残念だが娘らと楽しく過ごすってのは無理じゃろう」


 おじいさんは、一息つくと覚悟を決めて、残った言葉を吐き出した。


 「儂は娘らに会いに行く。だから、技術者メイクスとしての最後の願いを聞いておくれ。酷かもしれんが、お前だけは残って"そのユウシャについて行ってほしい"のじゃ」


 ・・・・・・は?


 「「・・・・・・はいぃ!?」」


 10Gと一緒に貰える【ヒノキノボウ】が次の次あたりにならないと出ない気がするのだが、どうすればいい?

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