第3話
「じゃあ、3時に公園で待ち合わせね」
「うん。約束ね」
学校帰りにそう言って黄絵(きえ)とみどりは別れた。
二人の通う小学校では毎週木曜日は、先生たちの会議のために午後は一時間の授業になり、部活動も休みになる。もっとも二人はまだ2年生で部活動に所属していない。
「ねぇ。ママ、今日はピアノも習字もないでしょ。黄絵ちゃんと公園で遊ぶ約束したの。行っても良い?」
「いつもの公園?」
「うん」
「そうねぇ。遊びに行っても良いけど、早めに帰るのよ。それと防犯ブザーは持って行ってね」
「うん」
みどりは元気にうなづいた。その拍子にツインテールに結った髪が揺れる。
咲子(さきこ)はみどりの頭を撫でた。大きくなったなと思った。もちろんまだまだ小さいのだが、幼稚園の頃はお友達と遊ぶにしても、まずママ同士でお話をして、じゃあ今日は誰々ちゃんの家でとか公園で何時になどと相談したものだ。小学校に上がった時は新しいお友達が増えたりもして心配で、お家に呼んで遊んだら?と声をかけたものだが、今はもうその必要はなかった。少しずつ行動範囲が広がっているのがわかる。
とは言え、まだ大きな道路は一人で渡らせるのは怖いが、近所の公園は大通りを渡らなくても歩いて行ける距離にあるし、黄絵ちゃんのママとも参観日で会った時に連絡先を交換していて知っている仲だ。きっと今頃は、黄絵ちゃんの家でも同じような会話が繰り広げられているに違いない。
そんな事を思いながら、おやつを頬張っているみどりを見ていたが、ふと、みどりは思い出したように顔を上げて咲子を見た。
「そうだ。ママ、今日出る本があるの。ふろくがマニキュアなの。黄絵ちゃんとおそろいで欲しいねってお話してたの。買っても良い?」
「それは、今度ママと一緒に本屋さんへ行った時にしましょう?」
「今日、それを持って一緒に遊ぶお約束なの。お願いママ。黄絵ちゃんも買ってくると思う」
「しょうがないわね」
咲子は我ながら甘いかもと思いながらも、黄絵ちゃんの家も中々に甘いのを知っているので、良いわよと頷いた。また、主人に怒られるかしら。でも、あの人もわたしとみどりに甘いのよね。
雑誌が買える分だけのお金を小さなお財布に入れて花柄のエプロンドレスをめくり、白いワンピースのポケットに入れて持たせる。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけてね。公園から別の場所へ行かないでね。夕方になったらお迎えに行くわ」
「はーい。行ってきます」
みどりは元気よく飛び出した。
ボブスタイルの髪を風になびかせて、先ほど青木書店で買った本を抱えて黄絵は公園に向かった。白いワンピースに花柄のエプロンドレスは、みどりとお揃いになるようにねだったもので、今日は着ていく約束をしていた。
その日、みどりは約束の時間になっても現れなかった。
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