不思議な生命②
一週間後に特別に面会を許された唯は史也に連れてもらい、凛の病室を訪れた。
祝福とねぎらいの言葉を掛けて、三人で風斗に会いにいった。唯は史也から風斗の様子を聞いていたので覚悟を持って風斗と対面した。
びしょびしょのケースの中を覗き込んだ唯は目を輝かせた。
「史也さん、驚かせないで下さいよ。生命力、満ち溢れてるじゃないですか。すっげ〜! 風斗、頑張ってるな。えらいぞ」
その言葉にびっくりした史也と凛がケースの中を覗き込むと、風斗は小さな手を握ったまま、小さな足をピクピクと動かしている。
昨日までは死んだ子犬のようにしか見えなかったのに、確かに今は生命力のようなものを感じる。
それでも普通の人が見ればそれはゾッとするような光景である事に変わりない。唯は普通の人には見えない何かを見ている。
史也と凛にとってそれは本当に心強いものだった。
その後も度々、唯は病院に連れてもらったが、行く度に風斗は成長して人間の赤ちゃんらしくなっていた。唯は風斗に色んな声を掛けた。
「風斗、お前は幸せだぞ。史也さんと凛さんの子供なんだから。頑張らなきゃな」
「なぁ、風斗。お前の頬のアザ、カッケーな。野生動物の力が宿ってるのかもな」
「オレ、風斗に負けないように頑張って動けるようになるから。色々教えてくれよ。寝返りもハイハイも、立つ事も自転車に乗る事も。宜しくお願いします」
史也と凛はそんな言葉から元気をたくさん貰っていたが、アザの話を聞いた時はハッとした。唯もあの物語の事を知っているのかな? と思ったけれど、その事を口にするのはやめておいた。
そして何気なく言っていたが自転車に乗る事を唯は諦めていないんだと感じていた。
風斗はその強い生命力で一日一日、信じられない程の成長を繰り返した。
そして一ヶ月後には何と普通の赤ちゃんと変わらないたたずまいとなって退院の日を迎える事となった。
史也は唯と凛を連れて病院に向かい、風斗を家に連れて帰った。
あらかじめ用意しておいた小さな布団に風斗を寝かせて、唯をその横の座椅子のようなものに座らせた。
風斗は生後一ヶ月の普通の赤ちゃんと何ら変わらず、よく泣き、時には天使のようなニコッとした表情を浮かべる。
特殊なのは頬に変わったアザがある事だけだ。
風斗がニコッとした表情を浮かべると、史也も唯ももうメロメロだ。いつまで見ていても飽きる事は無い。
と、突然、その小さな赤ん坊が寝返りを打った。
「えっ⁉︎」
三人とも目が点だ。
「ど、どういう事?」
目が点になっている三人を尻目に、その赤ん坊は何回も寝返りを打つと、手だけで前に進むズリバイを始め、ハイハイをし、立ち上がった。
「何? 何? 何が起こってるんだ?」
「風斗〜。そんなに早く成長するなよ。オレを置いていくなよ」
唯が呆気に取られながらもそう叫ぶと、風斗はドスンッと尻餅をつき、その場にひっくり返った。
何が何だかわからないまま、凛は風斗を抱え上げて布団の上に戻した。
風斗はそのまま気持ち良さそうにスースーと夢の世界に入ってしまったようだ。
風斗は夢を見ていた。
「なぜあそこでやめた? 立って、歩いて、走れただろうに。
お前は選ばれた子だ。数百年かけて大きな神様と私が作った選ばれた子なんだよ。
私はお前に雪豹の力を与えた。人間でありながら、私の持っている能力を使う事が出来る。それはどんなに素晴らしい事か。何も考えずにその道を進めばいいんだよ。
否定すればその能力は失われ、雪豹の記憶も失われる。残るのは顔のアザだけだ」
「だって、ゆいが、オレをおいていくなよっていったから。ぼくは、うまれたときから、いろんなこえをきいていたんだ。なんだかよくはわからないけど、ぼくはゆいといっしょにおおきくなりたいんだ」
「私は強制は出来ない。お前の道はお前が決める物だ。お前はしっかりとした考えを持っているようだから、好きなようにするが良い。
ただし、このアザを持って生まれてしまったのに普通の人間として生きるならば、辛い事も沢山あるだろう。
もしもその道を選んだなら、夢から覚めたらこの事も全て忘れてしまうだろう。
ただしお前はまだ幼すぎるから、数年後にもう一度だけ、私の能力を授かるチャンスが与えられるだろう」
そう言ってそいつは消えていった。
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