恐竜のせなか

カネコ撫子@推し愛発売中



 大地は揺れる。


 草木は掠れる。


 背中はザラザラとしていて、熱を帯びている。陽の光を吸い込んだようで、色褪せた。


 独りぼっちではない。


 世界は広い。知らない何かがある。

 けれど彼は独りぼっちの生命体だ。

 鳥の囀りや花の笑う声はよく聞こえるというのに、彼は笑ったことがなかった。


 ある鳥が聞いた。

 「寂しくないの?」と。


 彼は言った。

 「寂しくないよ」と。


 花は聞いた。

 「そんなの嘘だよ」と。


 彼は言った。

 「独りが好きなんだ」と。


 湖のほとり。夢か現か。

 鳥は大群となって、空を飛ぶ。次はいつ会えるか分からないと言い残して。


 やがて彼等は、戻ってこなかった。


 湖のほとり。夢か現か。

 花は天まで伸びると信じて、太陽の光を存分に吸い込む。今度は君より大きくなるよ、なんて言い残して。


 やがて彼等は、首を垂らして話さなくなった。


 幾年もの間、彼は独りぼっちだった。

 独りが好きだなんて言うのは、強がりだと痛感することになった。


 横顔が地面に張り付く。


 動かない。もう何も分からない。


 瞼を閉じるその寸前、思い出したのは彼等のこと。


 不思議と、心が躍った。

 彼等に会える。確信があって、胸が跳ねた。あの頃のように走り回れるだろうと。


 虚な目で、空を見る。


 彼が思っていた以上に、それは青かった。


 その空の向こうに、何が待っているのだろう。


 男は、笑った。



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