魔法少女のお仕事 3
“本日13時ごろ、K県K市、浮草通りにて発生いたしました魔法使いの襲撃は、見事、二人の魔法少女によって制圧されました。これによって警戒レベルは引き下げ――市民の方々は普段通りの生活に戻っても問題ないとのことです。
さてこちら、海浜スタジオには、今回の襲撃を収めてくださいました、魔法少女のキュア・ダイヤモンドさんとキュア・ルビーさんにお越しいただいています。キュア・ダイヤモンドさん、キュア・ルビーさん。今日は本当にお疲れさまでした――。“
街頭の巨大スクリーンに映るキュア・ダイヤモンドとキュア・ルビーを横目に、オブシディアンは街路樹によりかかってアイスコーヒーを飲んでいた。彼女は黒いふりふりのついたゴシック・ロリータ服に、踵の高い靴を履いている。
騒ぎになるので変身はしていない。それに今いるのは自分の区域ではなく、北のほうにある、K市の“魔法少女ロード”なんかよりも更に巨大でディープなグッズを扱う店が立ち並ぶ、Aという街だった。他人の担当区域で変身するのはあまりよくない。
ここの魔法少女はキュア・ラブラドライトを中心として一二人いる。日本で最も巨大な魔法少女たちの担当区域だ。十二人という人数に加え、一人一人も相当な手練れだとオブシディアンはきいたことがある。“魔法使い”の出現も他の地域よりかなり多いほうだが、日本で安全な場所を求めるならこの区域に住むべきだろう。
オブシディアンは巨大スクリーンを見上げた。
オブシディアンは、ここへ魔法少女として来たわけではなかった。ただ遊びに来たのだ。嫌なことが在ったらとりあえず遊ぶ。もやもやしたらとりあえず遊ぶ。そうやって忘れるのを待つのがオブシディアンの常とう手段だった。その証拠に、街路樹の陰、オブシディアンの足元には、買ったばかりの服やCD、レコード盤などが入った紙袋が置いてあった。
“あなたたちは普段、三人で活動していますよね。オブシディアンは休養中?”
“ええ。先日、あのアンホーリー・トライフェルトを撃破したあとで、まだ疲労が残っているんです。”
“すごいですよね。オブシディアン。あんな先輩を持って、よかったと思いますか?”
“はは! すっごい変人だけどね! 無口だし考えてることよくわからんしいきなり暴走するし”
“ダイヤモンド”
キュア・ダイヤモンドは相変わらず慇懃で、キュア・ルビーは変わらず控えめだった。こういう場だとダイヤモンドはほとんど喋らせてもらえない。ルビーが話す。なにを言うかわかったものではないからだ。お互いを尊重し、補い合っている。いいコンビだ。自分などいらないだろう。
“普段から気をつけてることとかって、あるんですか?”
ダイヤモンドが話そうとして、ルビーにたしなめられ、それでもダイヤモンドが大丈夫だから自分に喋らせてほしいと食い下がる。
ルビーが厳しい姉のようなしぐさで了承し、ダイヤモンドが喜んで椅子から身を乗り出した。
“アタシが気を付けてるのはね、プロじゃないってこと”
“プロじゃない?”
“ほら、アタシたちって、マスコットに誘われて魔法少女になるじゃん……じゃないですか。てことはその直前までは普通の女の子なん……ですよ。私はちょっと違うんですけど、でもみんなそうで。だから、戦闘のプロじゃない。こんな力は持ってますけど、中身は普通なんです。それは忘れないようにしたいですね”
“なるほど……気を抜かないようにということですね”
“いやそれとはちょっと違うんですけどね。あ、いや、そんな感じです。”
ダイヤモンドは曖昧な笑みを浮かべた。ルビーもそうだったが、内心はだいぶ違っているだろう。インタビュアーは次に休日の過ごし方や趣味なんかの話をきいた。
オブシディアンはなんとなく彼女たちのインタビューを最後まで見ていた。
――ホワイトリリーがいないな。
いる必要があるわけでもないし、なにか用事でもあるのかもしれないが。
それとも、自分の家にいるのだろうか?
オブシディアンは思った。
オブシディアンはため息をつき、足もとの荷物を持ち上げた。ずっしりと重い。どこか目立たないところで変身しよう。
「オブシディアンさん、ですよね?」
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