第4話 女騎士とO☆HA☆NA☆SHI
王都は人でにぎわっていた。なんでも魔王の城を陥落したことは既に耳に入っているらしい。戦勝ムードににぎわっていた。
「なんとも、こっちは平和なもんですね」
「そんなもんだよ?ま、あたしらには関係ないけどねえ」
レイラさんと歩きながら、俺たちは王城を目指している。曰く「首根っこを押さえる」のだそうだ。
そして、俺はここから本当の地獄を見ることになる。
まず、王城へは堂々と正面から入ることとなった。城は一般人もある程度入れるようで、城壁の中に入る分には誰でも入ることができる。問題はその奥なのだが。
レイラさんはそれをあっさり破って、立ち入り禁止区域へと進んでいった。
「え、ちょっと、良いんすか!? 」
「いいも何も、こっちいかないと始まらないもん」
そう言って階段を登ったところで、声がした。
「待て!! ここは立ち入り禁止区域だぞ!? 」
そこにいたのは、鎧をまとった女騎士だった。案の定の美人である。
「げ、見つかった……! 」
「ああ、あれも確かハーレムの一員だね」
レイラさんはスマホ片手に彼女と画面を交互に見ている。
「魔王を討伐に向かわれている、主様の留守を狙っての狼藉か、不届き者めが……!! 」
そう言うと、女騎士は剣をこちらへ向けた。魔法か何かなのか、剣先は淡い光を放っている。
「……そういえばさ、君、『くっ殺』って知ってる?」
「え?何ですか急に?」
「いや、そういうジャンルがあるんでしょ?お客さんが言ってたよ」
いや、あるにはあるけど。女騎士が敵に捕まって、「くっ殺せ!! 」っていう奴。
「あれってさ、自分が殺されないとわかってるから言えるよね」
「何を話している!! 侵入者め!! 」
業を煮やした女騎士が、剣を構えて襲い掛かってきた!!
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「いやあああああああああああああっ!!! やめてえ、殺さないでえええっ!! 」
さっきまでの威勢はどこへやら。泣きっ面を浮かべて女騎士は叫んでいた。
涙で崩れる彼女の顔は、血塗れだった。歯は欠け口から血を垂らし、鼻も潰れているだろう。さらに、顔のあちこちに青あざができている。
ここは立ち入り禁止区域の誰かの私室。武器と鎧を剥かれた女騎士は、肌着姿で後ろ手に縛られていた。
「あたしがやると『くっ殺』ってならないんだよねえ。やっぱ迷信かファンタジーだねえ」
そういうレイラさんは、指で剣の切っ先を遊ばせている。その剣先は女騎士のものであり、彼女の家の宝であり誇りでもあったらしい。「らしい」と言うのは、ついさっきレイラさんがへし折ったからである。
俺は青ざめて口をパクパクとしながら、レイラさんと女騎士を見やっていた。
襲ってきた女騎士に対して、レイラさんがしたことは至極シンプルだった。
繰り出された突きを躱し、その手を掴み、手前に引く。その時、足を引っかけて転ぶようにする。転びはしないもののバランスを崩した彼女の髪をひっつかむと、しゃがみながら地面に叩きつけた。
さすがにこの程度では心が折れない女騎士だったが、立ち上がろうとしても、頭を掴まれたままではどうしようもなく、再び地面へと顔面が叩きつけられる。叫ぶ間もなく、やがて意識を失った。
「さてと。聞きたいことがあるから起きるまで待とうか」
レイラさんは彼女を担ぎ、彼女の剣を持った。鎧をまとった女騎士を軽々運ぶレイラさんに俺は驚きを隠せなかったが、それより驚いたのが先ほどまでの行為をする間、彼女は眉ひとつ動かさなかった。それどころか、俺と話すときと何ら変わらない雰囲気で彼女を叩きのめしていたのだった。
俺は我慢できずに、その場で吐いた。
「ありゃりゃ……」
レイラさんは、俺を見ると、困ったように笑った。その顔には彼女の返り血が付いていた。
そして、適当な部屋に入ると、真っ先に彼女の剣をへし折った。縛った彼女の頬を叩いて起こすと、彼女目に飛び込んだのは折れた家宝だ。
「あ、ああ、あああああああああ…………!!! 」
地面に転がされた彼女が見上げれば、そこには先ほど自分を叩きのめした女が見下ろして立っている。
そうして心が折れた彼女は、先ほどのような悲鳴を上げたわけだ。
「ちょっと聞きたいことあんだけど。そしたら命は助けてあげる」
「き、聞きたいこと……?」
女騎士は怯えたようにレイラさんを見つめる。
「お姫様とさ、あとあんたのご主人様のお気に入りの子っている?」
「お、お気に入り……?」
「そう。戦力にはなんないけど、なんかわかんないけどいるって女」
「そんなの……」
女騎士が言いよどむと、レイラさんは折れた剣先を彼女に向ける。
「ひぃっ!い、います!!奴隷になっていたのをカイト様が買っていました!!」
「ふーん。カイトってんだ、王様。奴隷って、いくつくらい?」
「じゅ、10歳くらいです。あと、その娘の母親も買っていました」
母娘丼かよ。業深すぎだろ。俺は心の中で思わず呟いた。その呟きで、茫然としていたのが我に返るのだから、あんまりである。
「そっかあ。どこにいる?」
「い、今は自室にいます」
「ふうん。わかった。あとは自分で探すわ」
レイラさんはそう言うと、剣のかけらを置いて部屋を出た。俺もあわててその後に続く。
「ま、待って!……あなたたちは、何をしようとしているの……!? 」
「ん?うーん。国家転覆かなあ」
レイラさんはそう答えると、扉を閉めてしまった。
「れ、レイラさん!! 何なんすかさっきの!!! 」
「え、尋問だけど」
「いやいやいや、怖えよ!! 」
人を痛めつけておいて、顔色一つ変えないこの人が、俺は不気味でしょうがなかった。嫌そうにするわけでも、楽しそうにするわけでもない。ただただ真顔である。そりゃ女騎士も怖がるわけだ。本当に殺してしまうのかと思ったもの。
「あのねえ、依頼はチート持ちの王様だけでしょ。他はなるべく殺さないの。そんな必要ないんだから」
「殺さないって言っても、あそこまでやる必要あったんすか……!? 」
「さあ?」
「さあ、って……!? 」
「だって、相手が何するかなんてあたしわかんないもん。だったら、できるだけ予想外の動きしないようにさせるしかないでしょ?」
「それは、そうかもしれないですけど……」
「ほら、今日中に帰るつもりなんだから、休む暇あんまりないよ?さっき言ってた奴隷の親子を探そう」
「ま、まさかその人たちにも同じことを……!? 」
俺はいたいけな子供が顔面を床に打ち付けるところなど見たくないのだが。
「んなことしないよ。さっきのだって、襲ってきたからああしただけであって」
レイラさんはそう言うと、またずかずかと王城の中を進み始めた。
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