「2.モデルとなった国はどこだ?」

【モデルとなった国はどこだ?】

「さて、初見さんが読むに至ってネックなのが、国名なんだよな」


 文化の多様性や変化を描くのが本作の特色だから、国名が沢山だったり漢字だったりカタカナだったり1000年後には名前が変わってたりするもんね。


「そう、それで国名を見てもイメージつきにくい人もいると思うので、ひとまずどの国が現実世界の国にあたるか、検証してみたいと思う。

 ただの考察だから、涼月さまが『それ違う~』となったら、まあそれまでなんだけど」


 ただの考察厨……。





~双子がいた時代の国編~



聖杜せいと

飛翔ヒショウ飛王ヒオウの国である聖杜は、作中で『慎ましくも理想郷』として描かれてるよね」


 確かに、作中では、

・王立学校と工房や研究施設があり、全ての国民の子どもは、この学校で無料で学べる。

・神殿はあるけれど宗教による統治はない。

・基本自給自足。

・戦力を持つことを極力避ける


 っていう風に描かれていますね。


「そう、『知恵の泉』を守る国ならではの、『学術』『教育』を財産として見る視点だ。

 聖杜も飛王も飛翔も漢字だし、後で紹介する天空チェンコン国のよみがなが思いっきし現代の北京語であることから、中国圏内。

 私たちの世界で、『(※1)王朝』の末裔にあたるんじゃないかなと思う」



※1王朝

『史書』に残る中国最古の王朝。

初代の帝であるは、父親が失敗した黄河の治水事業を見事成功させた功績で皇帝になったと言われている。

彼は即位後、

・武器の生産を暫く取り止める

・農民の生活を守るために収穫量に目を光らせる。

・宮殿の大増築を当面先送りさせる。

・関所や市場にかかる諸税の免除。

・地方に都市を造る。

・煩雑な制度を廃止、行政の簡略化。

などを行ったとされる。要するに名君。



いんしゅうの三代王朝は暫く伝説でしかないと言われてたけど、

 最近の研究結果では、少なくとも殷には漢字の元となる『甲骨文字』が出来ていて、『夏にあたる』王朝で既に(※2)青銅器の鋳造技術が確立していたことが判明しているんだなあ」



※2青銅器時代

紀元前3000年頃に、メソポタミア文明で既に確立されていたらしい(夏王朝が始まる1000年前)。

基本的に、世界史は石器時代→青銅器時代→鉄器時代へと移る。ただし日本は、ほぼほぼ青銅器時代と鉄器時代が同じタイミングで始まっているとされる。



「日本が縄文時代で石とか骨とか使ってる真っ只中にさ……奴ら、既に合金作ってたんだぜ……銅にスズ足してよ……」


 世界ってすごい……。


(※ちなみにスズが少ない青銅で作られているのが、今の十円玉です)



「でも、もう一つの可能性も思いついて」


 もう一つ?


「『シャングリラ』って知ってる? そこ、ヒマラヤ山脈の麓にあるんだ。図書館とかがあって、世界中の知識が蒐集されてるっていう。

 『失われた地平線』っていうイギリス人が書いた探検小説に出てくる理想郷なんだけど、モデルは中国のデチェン・チベット族自治州って言われてんだよね」


 確か、聖杜も宝燐山っていう山の麓にあるって書かれていました。


 余談ですが、チベット語で希望は『令和』と発音がよく似てるそうですよ!







天空チェンコン国〉と〈バンガルス国〉

「で、この天空国は多分『秦』。秦が統一する前の『戦国時代』かな」


 作中で『天空チェンコン国』は、

・聖杜の東側

・周りの小国をどんどん属国に(これを戦国五国時代と作中で呼んでる)

と書かれています。

 もし聖杜がシャングリラの場所にあたるとしたら、その東側にあるのは秦かも。


「中国史では夏・殷・周の三代王朝が終わったあと、各国が争う春秋・戦国時代になった。

 んで、始皇帝が戦国時代に終止符を打ち、統一国家として『秦』が君臨する。『キングダム』の世界だね」


 じゃあ、その始祖である神親王シェンチンワンは始皇帝がモデルかな?


「ってなると、天空国と争っていた『バンガルス国』は、今のモンゴルの位置」


『バンガルス国』は、

・天空国の北側で、山の向こう

・騎馬民族

・鉄の産地でもあり、武器の製造にたけていた

となってます。


「『天空国』が秦なら、『バンガルス国』のモデルは『匈奴きょうど』じゃない?

 鉄の製造に長けてたらしいし、戦国時代に統一国家を作って、五国と一緒に秦を攻めたらしいし。負けたけど」


 匈奴かぁ。世界史に出てきたなあ。


「その匈奴を追い出すために作られたのが万里の長城なわけだな。

 で、始皇帝に負けた後、いわゆる三国志の時代に二つの民族(東胡、月氏)を取り込んで帝国を作るわけだけどーーまあこの辺りは『ティア・エス』に関係ないから省こう。世界史には出るだろうけど」


 勝手に略称作っちゃった……。


「匈奴帝国は滅んだけど、元々騎馬民族・遊牧民族だから、一箇所に留まらなくて、あっちこっち行くわけよ、この人たちは。

 それこそ今の中国でも内モンゴル自治区とかあるわけだし、トルコもモンゴル系の民族が先祖だって言われてるし」


 そう言えば、トルコは(※3)テュルク人(突厥とっけつ)から来てるんだっけ。


※3テュルク人(突厥とっけつ)

『史書』によると、突厥は匈奴から分裂した民族、らしい。








~1000年後の国名~



壮国チャンゴ〉〈キルディア王国(キルト王国)〉

 その『天空チェンコン国』の1000年後の国が、『荘国チャンゴ』になるなら、つまり秦の1000年後の国……。


「秦は大体紀元前3世紀に興隆・衰退したから、その千年後……プラス10世紀で大体13世紀ってとこか。

 『南宋』ってとこかな」


秦→前漢→新→後漢→三国時代→西晋→東晋・五胡十六国→南北朝→隋→唐→五代十国・契丹→北宋・遼→南宋・金・西遼


 ちなみに、三国時代の三国は魏・呉・蜀漢のことで、『親魏倭王』の魏はこの国を指します(つまり日本は弥生時代)。

 遣隋使の『隋』、遣唐使の『唐』も、この時代の王朝の名前なわけですね。……いやこれ、改めて言わなくても皆さん知ってるんじゃ?


「いや私は改めて言わないと理解しなかった。なんかそういう船の名前だと思ってた」


 えええ……。



 話を戻して、作中で語られる『荘国チェンゴ』は、


宝燐ホウリン山の東側全土


と、大国です。ガンガンに他国を吸収して行った形ですね。


「『宝燐ホウリン山』は飛翔の反応からしてかなり大きいだろうから、現実世界の(※4)ヒマラヤ山脈にあたるんじゃないかな」



※4ヒマラヤ山脈

サンスクリット語で「雪の家」という意味。世界で一番高いエベレストもヒマラヤ山脈の一部。ブータン、中国、インド、ネパール、パキスタンにまたがる。



 じゃあ、西側にある『キルディア王国(キリト王国)』は、インド?

 でもキルディア王国(キリト王国)は、


・『ティア』=『涙』の意味

・金髪で緑の眼の民が多い国


 じゃなかったっけ? これだとイギリスか北欧っぽいけど……。


「ブッダの目は青いよ」


 あ。

 そーか、(※5)アーリア系……。



※5アーリア系

元々はイラン(ペルシャ)民族。肌・目・髪の色が薄い人々が多かった。今も北インドには、イラン・アーリア系の血を濃く引く人々が生活している(インド人みんな褐色のドラヴィダ系ってわけじゃないよ)。



「アレクサンドロス大王の影響でエジプト・ギリシャの影響も受けてるからね、インド。仏像が出来たのもギリシャ文化の影響だし(ヘレニズム文化)、ヘラクレスなんて執金剛神として仏教に取り入れられてるらしいよ」


 ギリシャとエジプトとインドが結びついてるなんて、距離が遠すぎてイメージがつかない……。


「後はアフガニスタン北東部のヌーリスターン州とかカラシュ族とか金髪碧眼の人いるし、中央アジアの人の緑の目の写真は結構有名だよ?」


 じゃあ「ティア」は?


「……」


 そういえば、ミランダさんって「ベリッシモ(イタリア語で美しい)」って言ってたよね。これ現実世界の地理は関係ないんじゃない?


「……現実世界でも、イタリアのマルコ・ポーロが中国にやってきて『東方見聞録』書いてるから……」


 ドルトムントやフィオナが使っている金銭の数字、どう見てもフランス語だと思うけど。(1=アン、1000=ミル)


「……ここまで沢山の知識が出てくる作者様がすごいよ、まったく」



 あ、ぐだって逃げた。


☆結局どの国がどうモデルになっているのかわかりませんでしたーーーー。


【参考文献】

Wikipedia「夏 (三代)」

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%8F_(%E4%B8%89%E4%BB%A3)

(最終アクセス2021年5月1日)

Wikipedia「シャングリラ」

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%A9

(最終アクセス2021年5月1日)

世界史の窓「匈奴/匈奴帝国」

https://www.y-history.net/appendix/wh0203-093.html#:~:text=%E5%8C%88%E5%A5%B4%E3%81%AF%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AB%E9%AB%98%E5%8E%9F%E3%81%AB,%E6%BC%A2%E6%B0%91%E6%97%8F%E3%81%AB%E5%90%8C%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

(最終アクセス2021年5月1日)


高校で使った

木村靖二・佐藤次高・岸本美緒『詳説世界史B』山川出版社

浜島書店『 NEW・STAGE 世界史詳覧』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る