第203話京子、決心する

目覚めの良い朝だった。私はオッサンにこう持ち掛けた。部活を辞めて、医師になるための勉強がしたい。


「なんやて!全部辞めるん?」


うん、そのつもり。


「ワシには京子ちゃんの選択を否定する事はでけへん。京子ちゃんが選ぶ道なら大歓迎やで」


もっともっと勉強したい。そして人の為になる仕事がしたい。


「決意は変わらへんのやな」


うん、散々悩んで決めた。


「わかった。神様に伝えに行くけど、決心は揺るがんな?」


私は深くうなずいた。


その日の授業中に退部届を3通書いた。放課後、それぞれの部に持って行った。ボクシング部の顧問は驚いたが、


「そういや綾小路は医学部志望だったな」


顧問には以前からそう伝えてある。


「私は綾小路の退部を止める理由はない。ただ、1つ聞きたかった事がある」


顧問は一息ついて


「ボクシングを愛していたか?」


はい、と答えた。


「受験勉強で体が鈍ったらいつでも練習に来なさい。歓迎するよ」


ボクシング部をそっと後にしてレスリング部に向かった。顧問と監督は青ざめた。


「まさか、本気か!」


はい、そのつもりです。


「考え直す事は出来ないか」


はい、勉強を1番にしたいので。退部届を受け取った顧問は


「お前が居ないと寂しくなるな」


と言った。最後に柔道部である。


「なに!退部だと!」


監督は声を上げた。顧問は居ない。


「どうしたと言うんだ。なにか不満でもあったのか」


受験勉強を優先したいんです。


「むう!進路指導は私の管轄外だ。学園のモットーは来る者拒まず、去る者追わずだ」


一応預かっておく、と監督は退部届を受け取った。その足で私は新子さんを探した。すぐに見つけられた。退部届を提出した事を伝えたが、新子さんはさほど驚かなかった。


「そっかあ、医学部志望だもんね。今から勉強頑張らないと間に合わないよね」


でもなあ、と新子さんが呟いた。


「京子ちゃんが辞めるなら私も辞めよう」


新子さんは決めた事は必ず達成してきた。大丈夫だろうか。


「私も受験組だから受験勉強しなきゃね」


明るい新子さんだった。


「京子ちゃん、勉強頑張ってね」


翌日。登校すると教室がただならぬ生徒が集まっていた。


「おい!綾小路が来たぞ!」


辞めた部活の部員だった。口々に言う。


「どうして辞めるんだ」


「お前なら日本一も目指せるのに」


「とにかく辞めるな」


口々に言う。しかしもう決めた事なんで、クラスのみんなに迷惑が掛かるので帰ってくださいと伝えた。各部員がブツブツと言いながら教室から去って行った。


「みんなの憧れでもあったのよ、京子ちゃんは」


同じくもみくちゃにされた新子さんが言った。新子さんも詰められたそうだ。



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