第200話碁石を持つ元気はある

部活を休んで2日目。メリッサは私を心配している。


「大丈夫?京子ちゃん」


うん、大丈夫。ちょっと体調が良くなくてね。なんていうのは嘘で本当は元気。ただ今はひたすら無気力と言う嵐が通り過ぎるのを待つ。


「食事と読書、寝る以外はやったらあかんで」


オッサンの言う通り、早々と下校すると五十嵐の車に乗り込む。


「今日も授業お疲れ様でした」


五十嵐は余計な詮索せんさくをしない。こう言った時はとても助かる。家に帰り、制服を脱ぐとベッドに転がり込んだ。私の部屋は散らかる程のものはない。手早く制服をハンガーに掛けると今日はもう何もしない。ゴロゴロしている。


「あんな、京子ちゃん、昔の事を思い出したいか」


嫌!あんな毎日の事を忘れるために頑張ったんだ。


「じゃあ頑張ったんやな」


オッサンが私に問いかける。私は答えるのも億劫おっくうだ。だるい。あの頃か、辛かったな、毎日。


「そうや。京子ちゃん、またあの頃に戻りたいんか」


嫌!今の生活が良い。


「なら今はゆっくりして、元気が出てきたら頑張ったらええ。でも学校は行かんとあかんよ」


わかってる、とオッサンに言って毛布をかぶった。その時ある事を思いついた。


翌日。私は放課後、囲碁将棋部に顔を出した。


「やあ綾小路さん。どうしたの」


部員が声を掛けてきた。確か囲碁の大会、選手が足りないとか言ってたね。


「ええ、困っています」


部長が言った。じゃあ私が出るよ。


「ええ!本当ですか!部活はどうするんですか」


しばらく休むと言ってある。だから大丈夫。


「綾小路さん、ありがとう!」


部長は喜んだ。じゃあ時間も無いし、早速打とうか。


「ええ、好きなだけどうぞ」


私はオッサンに入れ替わる。


「なるほど、京子ちゃん。考えてることが見えてきたで」


オッサンはそう言いながら碁石を持つ。


「強い‥ありません」


部員が投了した。じゃあもう1局。広げた碁石を片付ける。


「お前も部内じゃ強い方なんだが、綾小路さんは別格だな」


人の輪が私と対局者を囲む。


「でも強すぎる。一体、何者なんだ綾小路さんは」


部長は考えた後、部員に伝えた。


「今年は部員不足で囲碁の全国大会の出場も危うかった。しかし綾小路さんが急遽きゅうきょ参加してくれる事になった。部員のみんな、喜ぶように」


部員達がざわついた。私を知らない1年生も居る。時間も無いからどんどん打とう。大会へ出場するメンバーと私を乗っ取ったオッサンは打ち続けた。


「高校生にしては強い方やけどまだまだやな」


おっさんは事も無く言う。実はオッサンのやっている事は私にはわからない。


「よしゃ。任せとき」


囲碁部は辛うじて部員を揃え、予選に進む事になった。もう時間は無い。

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