第168話2人の秘密

「綾小路さん、ちょっと良いかな」


田野君が声を掛けてきた。珍しいな。


「ちょっと行ってみたいお店があるんだけど」


面白そうだね。良いね、行ってみよう。


「ちょっと遠いんだけど綾小路さんと行ってみたくて」


それはそうとして、そろそろ止めない?苗字呼び。


「ごめん、京子ちゃん」


うむ、許す。2人部活を終え、待ち合わせた。五十嵐に迎えに来てもらおう。電車で隣町までやって来た。年季のはいった暖簾のれんだ。未成年は入れるんだろうか?以外に田野君は物怖ものおじしない。


「こんばんは」


開店初めのその店はおでん屋だった。店のおじさんが言う。


「よう、田野のオッチャンの息子じゃねぇか」


酒は出せねえよ、と言ってよこした。私は大きな鍋に浮かぶおでんと言う食べ物に好奇心旺盛だ。


「京子ちゃん好きなもの選んでね」


そう言われると私は困ってしまう。じゃあお店の人のお勧めください。


「良い判断だね。正解だよ」


タコの足、ちくわ、はんぺんに厚揚げ、じゃがいも。


「大人ならビールか日本酒なんだけど」


私と田野君はウーロン茶で乾杯した。私はこの空間が好きになった。


「店開けたばかりだから混んできたら帰ろよ」


このカウンターは常連客の特等席だと言う。なるほど、この席なら店の人ともお喋りできるし、おでんの取るところも楽しめて良いだろう。


「美味しい?」


うん、美味しい。でも1番嬉しいのは田野君のお誘いだ。


「京子ちゃん、そろそろ僕も名前で呼んでほしい」


ありがとう、涼太くん、おでん、美味しいよ。ぺろりと私は平らげた。


「サラリーマンの常連が来るまでまだ時間は有るよ、いっぱい食べてね、僕のおごりだよ」


家ではおでんなどは出てこない。私は新鮮な味と種類の多さに驚きつつ、食べた。


「そろそろ出ようか」


涼太君に促された。店前には五十嵐の車が待っていた。


「京子ちゃん、五十嵐さん、呼んだの?」


GPSですぐわかるよ。電車だと体が冷えちゃうから車で帰ろう。車内で五十嵐も交えておでん談議に花が咲いた。五十嵐は巾着が好きだそうだ。楽しい帰宅になった。

涼太君、ご馳走さま。


「これからも色々な店に行ってみよう」


楽しみがまた増えた。


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