第167話梅の花を待つ

私は犬のラブと毎朝散歩するのが日課だ。時折軽くジョギングにしてもラブは喜んでついてくる。利口な犬だ。タオルで足を拭いてやり、室内に放す。猫のシロがラブの帰りを待っている。2匹は仲良しだ。これも日課の縄跳びを持ち出して庭でトレーニングを行う。私には楽しみがあった。庭にある梅の木だ。毎年この時期になるとつぼみを持つ。庭を管理する父親は和洋こだわらず様々な植物を庭に植えている。その時期に応じて咲く花を植えている。梅の次は桜だ。


「もう梅も蕾を持ったんか。冬も終わりやな」


オッサンが感慨深く言う。センチメントだな。


「男やさかいに声出して言わんけど花が好きでな」


オッサンが熱く語っている。


「梅が咲いたら適当に切って、田中ちゃんに持って行ってあげ」


それは良いアイデアだね。でも簡単に切っても良いの?


「桜切り梅切らぬ馬鹿言うてな、梅は大丈夫なんや」


オッサンは意外と博識だ。テストの時など何度も助けられた。


「京子ちゃん、それ李白の詩やで」


こいつはカンニングに使える。おだててうまく利用しよう。


「京子ちゃんの考えはようわかってるで」


見抜かれたか。


「まあその気持ち、わからんでもない。利用できるものは利用したらええんや」


じゃあ報酬を渡すからピンチの時は助けてよ。


「ええで。お供え物さえしてくれたら、ヒントあげるわ」


どんな報酬が良いの?


「できたてのみたらし団子がいい」


欲の無い報酬だな。料理長さんに頼んでみるよ。


「マジで!ありがとう、京子ちゃん」


なんでも生前近所に団子屋があり、出来立てをよく食べていたと言う。


「減量中にな、こっそり食べるのが楽しみやったんや」


私は料理長にお願いした。お安い御用だと言う。良かったね、オッサン。

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