第166話京子、田野君にチョコを渡す

いよいよバレンタイン当日がやって来た。部活で荷物の多い私はチョコを紙袋に入れ、大切に持って登校した。教室はなんだか雰囲気が浮ついている。私は荷物を置いてチョコを持って田野君の席に持って行った。田野君、はい、チョコレート。オオッと教室内に驚きの声が出た。


「なんだよ、田野の野郎、綾小路さんからチョコレートもらいやがって」


「許せねぇ、俺も欲しいぜ」


男子が色々言っている。田野君は、


「わぁ、ありがとう!」


素直に喜んだ。ありがとう。新子さんには友チョコだ。


「はい、私も友チョコ」


新子さんがチョコをくれた。私が渡したのを皮切りに一斉にチョコ渡しが始まった。


「ちくしょう、ちくしょう」


もらえない男子達の怨嗟えんさの声が聞こえる。そこで私は別の紙袋を持った。余ったチョコレートで義理チョコを作っていたのだ。


「綾小路さん、ありがとう!」


「綾小路さん、マジ神」


男子達はお礼を言う。笹原さんの予想通り、義理チョコは用意していて損は無いと。

賑やかな教室になった。古沢さんがやって来た。


「京子ちゃん、はい、本命チョコレート」


グイグイと古沢さんはやってくる。そのチョコレート、食べて大丈夫?


「ぜんぜん大丈夫。私の愛情がたっぷり入ってるの」


怪しい。何を考えているんだ。このチョコレートは家に持って帰って毒見をしよう。

この日はなんだか教室も良い雰囲気だ。


「綾小路さんは恥ずかしくないの?」


クラスメイトが話しかけてきた。まあ、渡してしまえばなんて事は無いよ。


「私も渡してくる」


そのクラスメイトは男子にチョコを渡した。ほらね、できるじゃん。渡せて良かったね。


「ありがとう、綾小路さん」


お礼はいらないよ。その子は友チョコをくれた。ありがとう。お昼の休憩になって、女子たちが私にチョコを持ってきた。手作りや有名なチョコのブランド、色々だ。


「モテてしかたないね」


新子さんに言われても反論できない。ホワイトデーのお返しをするためにクラスと名前を聞いて付箋ふせんで印をつける。こりゃ来月も大変だ。

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