第164話それから
田中さん宅を訪ねて線香を上げさせてもらった。仏壇の彼女の写真は素敵な笑顔だ。彼女は私に手紙を残していた。その手紙を受け取り、自宅へ戻って手紙の封を開けた。手紙を読む。
拝啓京子さん
この手紙が京子さんに届く頃にはもう私も死んでいる事でしょう。私は自分が苦しむ姿を見られたくないので京子さんの面会はお断りしました。気分を悪くさせたかもしれない。この手紙でお詫びをさせて欲しいです。
京子さんは私に自分の事を全て話をしてくれたね。太っていた事、不登校の事、頑張って高校へ入学した事。私と当てはまる事が多くて私は親近感を覚えました。木下ジムへ顔を出さなかった事、インターハイの優勝、おめでとうと言いたかったけど遂に口に出せず、これは私の後悔するところです。病気になった事は仕方が無い。誰のせいにもできません。でも、やりたいボクシングができて後悔は無かった。そして京子さんと出会えた事は私の大切な宝物になりました。あの世でもきっと私はボクシングをするでしょう。私、負けず嫌いだから。天国で京子さんと試合ができる事を楽しみにしています。それじゃあ、さようなら。
「京子さん、最近元気無いですね」
メリッサが気を使って話しかけてきた。ううん、大丈夫だよ、と答えておいたオッサンの言う事には田中さんが天国へ向かう姿を遠くから見たと言う。
「京子ちゃん、良い人ほど天国から声が掛かるねん。天国も忙しい世界やからな。天国もこの世もなんも変わる事はあらへん。ひょっとしたら田中さんも神様の要請で俺みたいになるかもしれへんで」
そう言えばオッサンの詳しい事聞いていなかったな。教えてよ。
「それは企業秘密よってに教えられへん」
天国って企業かよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます