第163話田中さんの病気

私は田中さんから連絡を受けて五十嵐の運転する車で田中さんの入院した病院へ向かった。学校は途中で抜け出した。部活もするつもりはない。病室へ向かい、田中さんの入っている個室へ飛び込んだ。


「京子ちゃん、学校は?」


田中さんは驚いた。もちろん、抜けて来たよ。


「私、急性白血病だって。余命宣告されちゃったよ」


私は震える唇で聞いた。


「持ってあと2ヶ月だってさ」


私は泣いた。でも助かるかもしれない。


「骨髄ドナーが居れば治療できるかもしれないけど、私の場合は無理だって。重症」


またリングに上がろうよ。


「最後に上がったリングは楽しかったな。京子ちゃんとスパーできて、ラーメン食べれて」


私は言葉を失った。田中さんのお母さんが入って来た。


「はじめまして。母です」


私は自己紹介した。


「綾小路さんのお話は本人より聞いています。お見舞い、ありがとうね」


いえ、私にはお見舞いしかできる事が無くて。フルーツのバスケットをお見舞いに持って来ていた。


「本人も果物は大好物だから喜ぶわ」


「もう、お母さん、止めてよ」


面会時間が長くなると本人にも良くないと思ったので帰る事にした。田中さん、また来るね。


「うん、また来てよ」


田中さんの明るい返事が返って来た。病棟から離れた時、田中さんのお母さんがやって来て、


「綾小路さん、ありがとうね。本人もすごく喜んで」


もう長くないと涙を流しながら私に感謝した。田中さんはいじめで不登校になり、ボクシングを始めたと言う。初耳だった。


「あなたの話をすごく楽しそうにするんです。またお見舞いに来てあげてください」


もちろんそのつもりだ。また来ますと私は言った。しかしお見舞いを重ねるたびに田中さんの病状は悪くなった。もっと早くに気が付けば助かったかもしれないと田中さんのお母さんは言った。数日経ったある夜、オッサンが、


「田中さん、死んだで」


天国へ行ったそうな。私は田中さんのお母さんに連絡した。密葬で、近親者のみで葬儀を行うと言う。私はオッサンに聞いた。


「京子ちゃん、大丈夫や。田中さん、天国でもボクシングの練習してるで」


私が天国へ行ったらまた田中さんとスパーをしたいな。ベッドの中で泣きながら田中さんを想った。

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