第162話久々の木下ジム

部活動の休養日、私は木下ボクシングジムに顔を出した。久し振りである。


「おぅ京子、久しぶりだなぁ」


木下会長が声を掛けてきた。


お久しぶりです、と返事をすると小さな影が飛び込んで来た。田中さんだ。


「京子ちゃん、久しぶり!」


私に抱き着き、


「京子ちゃん、寂しかったんだよう」


田中さんがベソをかいた。そうだね、久しぶりだ。部活が忙しくって、ジムにまで行く時間が無かったんだ。ごめんよ。


「スパーしよう、スパー!」


着替えを終えて私と田中さんはリングに上がった。木下会長は


「無理をするなよ、マススパーだ」


軽いスパーをする事にした。驚いたのは田中さんのテクニックだ。間合いを詰めるのが格段に上手くなっている私のふところでショートフックをはなつ。私が反撃しようとすると素早く対応してガードする。インファイトは100点満点だ。ブザーが鳴り、スパーは終わった。リングを降りて2人ベンチに座った。田中さん、強くなったね。


「ううん、まだまだだよ。京子ちゃんに上手くガードされたでも悔しくないの。インハイ優勝者に良いスパーできたんだから」


マススパーとは言っていたがほとんど本格的なスパーだった。内容も田中さんが良くて、私は田中さんのペースで上手くしのがれてしまった。田中さんも努力している。かなり強くなったんじゃないかと思う。


「ジムの中じゃ私がライトフライ級だと無敵なんだ」


なるほど、もうジムでは田中さんに勝てるジム生も少ないだろう。小さな声で田中さんが声を掛けてきた。


「ねぇ京子ちゃん、今日は早めに抜けてラーメン食べに行こうよ」


うん、良いよ、と答えて2人ジムから抜けた。


「美味しいとんこつラーメンのお店が出来たんだ」


お腹がペコペコだ。たまにはラーメンも良い。小奇麗なお店で、2人ラーメン大盛りを頼んだ。しばらくするとラーメンがやって来て、2人仲良く食べた。ラーメンを楽しんだ後、2人は別れる事になった。


「京子ちゃんはどこまでも高く行けると思う。でも私を忘れないで」


田中さんの意味深な言葉にその時は気が付かなかった。彼女が白血病になるなんて。

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