第159話田野君とデート

最近何かが不足している。何だろうか?部活の練習?勉強?悩んでいると視線が田野君を捕らえた。そうだ、最近田野君とデートしていない。由々しき事態である。私はデートしようというメモをさりげなく田野君に手渡した。私はスマホで連絡するのがあまり好みではない。情緒が無い。直接コンタクトしてこそお付き合いの形ではないだろうか?放課後田野君が私に近寄り、


「良いよ。見に行きたい映画があるんだ。一緒に観に行こう」


私は喜びを隠せない。ついニヤリと笑ってしまう。映画なんてデートらしいじゃないか。週末が待ち遠しい。


「京子さん、待った?」


ううん、全然。少し早く着いただけだよ。


「じゃあ早速行こうか」


やはり日曜日は混雑していてほとんど満席に近かった。劇場が暗くなり宣伝が始まった。2人は無言になった。私は田野君の手に触れたくてムラムラしていた。自然な感じに手を触れあえたら良いな。映画が始まった。私は狙って田野君の手に触れて行った。田野君の手から驚きを感じたが、自然と2人の手は重なった。田野君の手を確かめるように握った。田野君も応じる。なんだかすごくエッチな感じがする。映画を観ていない。2人がイチャコラしている間に映画は終わってしまった。


「なんだか映画が頭に入らなかったね」


田野君が言った。うん、私もそうだった。早くも日が暮れて、夜の入り口にある。


「手、つなごうか」


私はうん、と答えて手をつないで帰った。


「綾小路さん、何か良いことありました?」


メリッサが話しかけてきた。しまった、顔に出ていたか。ううん、なんでもないよ。田野くんはチラッとこっちを振り向いて笑顔で手を振った。私も手を振って応じる。昨日は良い時間だったなぁ。

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