第153話メリッサとボクシング

「京子ちゃん、えらい事になったな」


オッサンが驚いて言った。


「俺でも予測できん事もあるんやな」


神様は気まぐれだ。私の予想を遥かに超えている。メリッサは顧問と話をしている。きっと彼女は本気でボクシングをやりたいらしい。


「綾小路、メリッサとスパーをしてやれ」


わかりました、と私は答えた。一緒にロッカーで着替える。彼女は自前の道具を持っている。後は私とスパーをするだけだ。黒に統一されたウェアは彼女に似合っている。狩る側に見える。下半身の筋肉も素晴らしい。


「綾小路、マススパーで良いぞ」


顧問から声を掛けられたが実際に対峙すると彼女が優れたボクサーだと言うのはよくわかる。慣れた感じでリングに上がった。


「京子ちゃん、残念やが今回はおれにやらせてもらうで」


珍しくオッサンがやりたいと言うのでやらせてみる事にした。その言葉の意味がすぐに理解できた。ボクサーとしての資質が私とは全く違う。見た目細身のメリッサはハードパンチャーだった。とてもマススパーのレベルではない。野獣の如く放たれるパンチは強烈だった。反撃は上手く避ける。終始メリッサのペースだった。部員達もじっと見ている。ブザーが鳴ってマススパーは終わった。


「メリッサ、なかなかやるな」


顧問が言うとメリッサも答えた。


「全て父親からコーチングを受けました。綾小路さんとのスパー、楽しかったです」


笑顔で顧問と話をしている。


「京子ちゃん、とんでもないバケモンが現れたな」


オッサンが私に入っていなければ危ういと言った。階級は違えど私が目標とする位のボクサーだと言う。部活が終わり、女子部員はロッカーで着替えていた。話題はメリッサだ。


「すごい子が来たね」


「あれが黒人のフィジカルなのね」


「私達の脅威よ」


皆混乱している。スパーの話になった。私に話が向けられた。優れたボクサーですよ、とだけ答えた。入部の手続きをしたメリッサがロッカーへやって来た。


「皆さん、お疲れ様でした。明日からお世話になります。よろしくお願いします」


女子部員が問い詰める。


「ボクシング歴何年?」


「5歳の頃からグローブをしています」


凄いね、と皆がメリッサを囲んでいる間に私はそっと離れた。部室を抜け出した。五十嵐の車に乗り込む。


「メリッサちゃん、京子ちゃんのライバルになるで」


それはそれで良い事だ。やりがいがある。

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