第149話バイク

桐生学園はバイク通学が可能だ。私は毎朝、五十嵐の車を降りると向かう場所がある。学園のバイク置き場だ。バイク通学の生徒が登校後、集まっている。私は並んでいるバイクを眺めるのが好きだ。


「おい、綾小路じゃん」


クラスメートのバイク通学をしている浅田が声を掛けてきた。


「いつも車通学なのに珍しいな」


バイク通学って楽しい?


「そりゃもう電車通学なんてできなくなるよ」


雨の日は?


「雨の日はバイク濡らすわけにはいかないから電車だな」


それだけ大事にしてるんだね。そうさ、と浅田は答えた。私は浅田と別れて教室へ向かった。今日は何時もより遅めに登校したのでもう新子さんが居た。ノートパソコンで何かをしている。


「京子ちゃん、おはよう」


新子さん、おはよう。


「今日、バイク登校の人達と話をしていたね」


うん、バイクって楽しいか聞いてみた。


「まさかバイクの免許取りたいとか言うんじゃないでしょうね」


なんでわかったの?


「もう、すぐ京子ちゃんは影響されるんだから」


くどくどと新子さんは私をさとす。事故を起こしたら、怪我をしたら。新子さんは実は私の事を見抜いている。そう、バイクに乗りたくなった事をだ。大丈夫、ちょっとそう思っただけだから。


「本当に?約束できる?」


ごめん、約束はできない。


「もう、京子ちゃんは」


新子さんは呆れている。そう、すでに意思は固い。


帰宅した時、父親にバイクの件について話をすると意外とあっさり許可してくれた。


「免許の取得費用、バイクの価格、見積もりを出しなさい。でも約束してほしい。安全運転をする事」


父親はそう言った。もちろん、部活に勉強に、少しでも影響してはいけない約束になった。


「京子が約束を守るなら安い買い物だよ」


父親はそう言った。


「お父さんもバイクに憧れた時があってね、反対されたものだよ。でもだからと言って娘に同じ境遇にさせるわけにはいかない」


父親の意外な過去に驚いた。

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