第147話茶道

我が家には茶室があり、師範が父に稽古をしている。しかし父も茶名をつけられるほど精通している。ふすまを開け、にじりながら部屋に入る。襖を閉めて師範に挨拶をする。丁度父が茶を立てている所だ。


「あら京子さん、久しぶりね」


師範が言った。今日は茶を立てたくて来ました、と伝えると、


「じゃあお父様の後にお点前をしなさい」


席に座り、父の点前てまえを見る。無駄の無い、洗練されたものである。立てられた茶を取りに行き、席で茶をいただく。美味い。


「お父さんのお茶はどう?」


美味しいです。


「じゃあ京子さん、平点前で立てなさい」


はい、お稽古宜しくお願いします。水屋みずや(道具を置いてある部屋)で平点前の準備をする。一番シンプルな点前だ。襖を開けて一礼し、道具を運ぶ。子供の頃から稽古をしているので体が覚えている。袱紗ふくさ(絹で出来たハンカチの様なもの。道具を拭き清めたりする)で茶釜の蓋を開け、蓋置に蓋を置く。茶碗を拭き清めて茶を立てる。


「綺麗なお点前ね」


父親は静かに私を見ている。茶が立てられた。茶碗を置き、水差みずさし(水を入れている器)から水を柄杓ひしゃく(水をいれる道具)で茶釜に移す。父親は私の茶を飲み、


「うん、美味く立てられている」


私を褒めた。私は片付けを始める。片付けも大切な作法だ。順番に道具を下げて退室する。最後に礼をして襖を閉めた。茶室に戻ると師範が


「良いお点前でした。作法を忘れていない事は素晴らしいわ」


「美味い茶だったよ」


にぎやかに話をした。師範はまた茶の稽古をするように勧めてきた。今日はたまたま時間が有ったので来ただけで、もうすぐしたら弟が来るだろう。


「京子さん、今日はお客になってください。弟さんの稽古に付き合ってください」


久しぶりに弟の茶を飲む。たまにはこんな時間があっても良い。しばらくすると襖が開き、弟が入って来た。


「姉さん、久しぶりだね」


弟は別段驚く事も無く、師範に挨拶をして水屋に下がった。


「京子、達也は上達したぞ」


確かに作法に無駄が無く、師範の指摘もほとんどない。出された茶も美味かった。


「オレが出る間ではないな」


オッサンがつぶやいた。私は弟の茶を飲んだら部屋を退室した。勉強だ。家庭教師の羽生さんが待っている。

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