第30話ミット打ち

私は黙々とサンドバッグを打っている。自宅ではなく、木下ボクシングジムでだ。


「綾小路さん、ミット打ちをしようか」


木下会長が誘って来た。どうしようかと悩んでいたら、田中さんが


「チャンスよ」


と言ってリングへ上がるように勧める仕方が無い。上がる事にした。


「よしゃ、京子ちゃん、任せとき」


オッサンも乗り気である。


「5分だけやろうか」


木下会長が言った。私は承諾した。タイマーが鳴り、カウントを開始する。オッサンは会長のミットを的確に打つ。


「はい、左、右、フック」


全力を出してもオッサンの正確なパンチは威力も落ちなかった。木下会長も大汗をかいている。


「綾小路さん、大したものだよ。素晴らしい破壊力のパンチだ」


木下会長は私を随分ずいぶん持ち上げる。


「あんな、京子ちゃんレベルの人間はそうそう現れへんのよ」


オッサンは私に話しかける。


「じゃあ抜けるで」


ミットを打った衝撃が腕に残っている。相当な強さで打っている。恐るべし、私。田中さんがタオルを貸してくれた。


「京子ちゃん、凄いよね。まだ15歳でこれだよ。成長が恐ろしいわ」


田中さんはズケズケと言う。表裏の無い田中さんは好きだ。


「ところで京子ちゃん、高校はどこ選ぶの?」


実は家庭教師の羽生さんとまだ考えてる。


「まだ決まってないよ」


「そしたら私の高校へ来たら?ボクシング部も有るし、結構強いんだ」


柔道部とレスリング部は有る?


「うん、有るよ。どっちも有名な部だよ」


なるほど、私の希望にかなり強いな。部活の掛け持ちは良いの?


「うん、大丈夫だよ特に決まってないね」


よし、田中さんの高校も候補に入れてみよう。


私はプロテインをゴクゴクと飲んでそう思った。

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