第22話逸材

木下会長は上機嫌だ。田中みどりと綾小路京子。この二人は伸びる、そう確信した。

前日に田中と綾小路のマススパーを見たがお互いに動きも良く、良い内容だった。

田中はインファイトに持ち込もうとするが、綾小路はジャブで阻止する。時折ストレートを放ち、田中をけん制する。木下会長は綾小路が素人ではないと見た。


「綾小路さん、ミット打ちしようか」


はい、と二人リングに上がった。


「確か君、両利きだと言っていたね」


はい、そうですと彼女は答えた。


「よし、じゃあやってみよう」


左右のジャブからストレート。フック。リングを回りながらミット打ちをする。


「なんと強烈なストレートだ」


木下会長は京子の才能に惚れた。この子は必ず強くなる。この上から打ち込むストレートの威力は男子でも通用する。タイマーが鳴り、ミット打ちの時間は終わった。ありがとうございました、と京子はリングを降りた。


女子クラスが終わり、娘の里奈とジムを片付けながら話をした。


「最近入会した綾小路さん、全くの素人じゃないな」


「うん、誰かに教わっているね」


「素晴らしい逸材だよ。女子なのが惜しい」


「まだ16歳よ。末恐ろしいわ」


帰りの車の中に京子は居た。今日もクタクタだよ。


「でも良い感じになってきたで。ミット打ちも的確に放てるようになったし」


あの田中さんって人、どう思う?


「あの子か。度胸もある典型的なインファイターやな。一発が怖いわ」


その時、車のガラスをトントン、と叩く人間が居た。窓を開けてみると田中だった。


「やっぱり綾小路さん。車でお迎え素敵ね」


良かったら駅まで送ろうか?


「え!良いの?」


今日だけ特別だよ。


「わーい、ありがとう!」


普段は静かな車内が賑やかになった。田中はとにかくよく喋る。けっこう厳しめな練習の後なのに元気だ。


「綾小路さん、お友達になろう」


いいよ、と答えた。オッサンもええで、と答えた。


「階級は違うけど、私達良い友達になりそう」


駅まで送って車は自宅に向かった。さして面倒でもなかった。


「田中ちゃん、ええ子やないか。友達にもなってくれたで」


そうね、と答えて疲れからの睡魔が襲って来た。今日は色々疲れた。眠ってしまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る