第16話帰り道
木下ボクシングジムから少し離れた所に車を待機させておいた。疲れた体を投げ打つように後部座席に乗り込んだ。もうヘトヘトだ。
「お嬢様がボクシングを始めるとは意外です」
綾小路家の運転手、五十嵐はそう言った。どうせお父さんに報告するんでしょ。
明るい言葉で五十嵐は返事をした。
「もちろんです。報告が義務ですから」
全てが我が家ではこうなのであるから日々の生活など筒抜けである。
「まあ、俺の存在までは知らんやろうけどな」
まあね、オッサンの存在がバレたらとんでもないことになる。
「ご帰宅されたら食事ですか」
もちろん。プロテインもね。
「京子お嬢様がお元気になられて五十嵐は嬉しいです」
五十嵐は私が小さい頃からの運転手だった。良く遊びに付き合わせた。私にとっては家族に限りなく近い。
「ボクシング、カッコイイじゃないですか。試合の時は応援に行きますよ」
応援ねぇ。そこまで辿りつけられるか怪しいものだけど。
「京子ちゃん、何を言うとんねん。もちろん大活躍や。日本女子ボクシング界に革命を起こさせるんやで」
オッサンは息まいている。私をそこまで熱くさせるのは何故なのか。もっと他にやり方は無かったのか。
「そりゃまあ神様の言う事やから。俺が京子ちゃんにアドバイスするのも神様の意思やで」
怪しい神様だ。そうこうしているうちに我が家に帰って来た。バッグを持って車から降りる。
「お嬢様。お疲れ様でした」
五十嵐が声を掛けてくれる。優しい男だ。
「さあ京子ちゃん、メシ食べてプロテインやで」
オッサンは元気である。あんたは疲れないの?
「うん?まあ京子ちゃんの身体の疲労はオレにも伝わるから。だから京子ちゃんが感じる疲れは俺の疲れでもあるんや」
オッサン、あんた、大したもんだよ。
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