第12話木下ボクシングジム

私はボクシングジムの前に居た。オッサンの誘導である。


「よしゃ。ほな行くで」


私の静止を振り切り、オッサンはジムに入った。受付に女性が居た。


入会希望なんですが。


「ああ、それなら見学をされてはどうですか?」


見た目より知的な雰囲気の女性スタッフが言った。従う事にした。オッサンは喜んでいる。


「ええな、この殺伐とした雰囲気。一触即発。たまらんな」


ジムのメンバーは私を不思議そうに見ている。


「こら、みんな練習に集中しろ」


コーチらしき人物が大声を出した。こちらに向かって来る。


「君、ボクシングがしたいのかい?」


はい、よろしくお願いいたします。私が立ち上がるとそのコーチ、木下が私を見上げて


「君、背が高いね。何センチ有るの」


190センチです。


「ほう、大したもんだ。強くなりたいのかい?」


はい、強くなりたいです。


「それなら是非うちのジムでトレーニングしないかい?」


今日しっかり見学させて頂いて決めるつもりです。


「そうか。ではゆっくり見学してください」


ロードワークの時間になったらしく、皆ランニングシューズに履き替えて外に飛び出した。


女性がお茶を出してくれた。


「お父さん、このジムのコーチ、私のお父さんなんだけど、見る目には自信があるみたい」


自分のお茶も用意していて、二人で少し話をした。彼女、木下玲きのしたれいは二十歳だそうだ。


「最近は女性も来るようになったの。夜には女子の時間が有るからそっちを見学してみたらどうかな?」


なるほどごもっとも。


「もう一回、夜に来てみてください。きっと雰囲気も違うから気に入ってくれるとおもう」


そう言ってチラシをくれた。


「男女、別なんかどうでもええねん。な、京子ちゃん」


いや、大切な事だよ。


「そないか。まあ好きなようにしたらええわ」


オッサンも何故か納得した。

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