第10話服が困る

トレーニングを比例するようにスルスルと体重が減っていった。数字に反映されるのは楽しく、体重計が苦手ではなくなった。


「どうや京子ちゃん。体も軽くなってきたやろ?」


うん、確実に軽くなってる。お肌の調子も良い。吹き出物が無くなった。


「まあおやつとか食べへんかったらそうなるな」


私はお菓子を遠ざけ、口寂しい時は干し芋を食べた。


「体に良いもの食わんとあかん。食って人に良しって書くやろ?」


あ、本当だ。


「今の食べもんは病み付きになるような砂糖の量や添加物で一杯やから」


言われてみるとそうだ。これでもかと甘く作って、一旦食べるともう一つ、もう一つとついつい食べてしまっていた。


「そうそう、ホンマに体にええもん喰うのは難しい。でも京子ちゃんの家のコックさんはちゃんと考えてくれてるやない」


全ては料理長の田垣さんのお陰だ。私の提案も受け入れつつ、栄養を考えてメニューを作ってくれている。


「京子ちゃん、キミの家、どんだけ金持ちなん?」


実際の所良くわからない。父と兄が経営の中枢に居る事だけは確かだ。でも、あまり知りたくない。


「もし京子ちゃんが俺の家で産まれたらケツ蹴り上げられて追い出されるで」


私はよっぽど幸せなんだな。


「そうそう、ありがたい事やで」


オッサンはふっと私に取り付いて私を乗っ取った。


「それでもまだまだ問題はある。女の子やのに服が少なすぎるで」


それは私も感じていた。この長身と体格である。服を探すのも大変である。


「そやなぁ。女の子らしいのは着れんでもお父さんに頼んだら何とかなるんちゃう?」


それは良いアイデア。早速お父さんに頼んでみる。父さんは言った。


「よし、じゃあオートクチュールで頼もうか」


父さんの行動力は怪物である。すぐさま百貨店の渉外しょうがい部の人がやって来た。

私の体型を採寸し、希望を聞いて来たのでシンプルな女の子らしいものが良いと伝えておいた。


「楽しみやなぁ」


オッサンは嬉しそうだ。


「京子ちゃん、かなり細なったから似合うと思うで、ホンマに」


このオッサンはヨイショが抜群に上手い。世の中をそれで上手く乗り切って来たのだろう。

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