第28話 レベルアップ
部屋に戻ると、貰った新聞をじっくり読んでみることにした。
「どれどれ。――――タオスの森にあるウォルテミスダンジョンの到達記録更新?」
トップ記事は、どこぞの冒険者パーティが誰も行ったことのないフロアまで到達したって内容だった。
俺はそんなに興味は湧かないが、この世界では冒険者の活躍が話題になるのかもしれない。
他にも冒険者の活動を書いた記事もあるので、元の世界でいうとスポーツ選手みたいな扱いのようだ。
ごく普通の事件や事故も書かれていた。
なんちゃら男爵が亡くなったとか、なんちゃら村で洪水の被害とか。
はぐれゴブリンによる牛被害発生、なんてのは異世界らしくて笑ってしまった。
「クリフォード侯爵領の税収見直しか?」
社会情勢的な記事もあるようだ。
領民が凶作によって税収の見直しを訴えていることが書かれている。
少し貴族を非難するような書きっぷりだ。
「国民と領民の違いが分からんな。領民は市民みたいなもんかな」
俺にはピンとこない記事だった。
元の世界では、ニュースはネットの記事か、テレビの情報番組で仕入れれば十分だので、新聞なんてテレビ欄ぐらいしか読んではいなかった。
しかしそんな俺でも、この世界の新聞は食い入るように記事を読んだ。
何にも娯楽がないというのもあったかもしれないが、情報に飢えていたというのもあったかもしれない。
月に数回の発行って言っていたが、もう次の新聞が楽しみになっていた。
次の日からも、ダンジョンに通う生活は続いた。
戦う場所は有料ダンジョンの地下五階。
敵の強さと、魔鉱石のドロップ具合を考えると、今の俺たちにはこれ以上適している場所はないらしい。
一度のダンジョンでの俺の報酬は、だいたい銀貨5枚~7枚で、最初は薬草代で消えていたが、3回目あたりから少し余るようになっていった。
「お金が貯まったら何に使えばいいと思う?」
ある日、いつものようにダンジョンへ向かう途中で、俺はセシリアに尋ねた。こういうのはいつもセシリアに頼りっきりだ。
「ん~、選択肢は、装備を買うか、魔法かエクストラスキルの習得ってとこかしら。キミの場合、消費MPが高い『ブロック』しかないから、もう少し低い魔法を覚えるか、実戦でも使えるエクストラスキルを習得するのがいいと思うわ」
魔法かエクストラスキルか。
たしかに『ブロック』は消費MPが高いうえに、アレックスとブラッドリーには必要そうにないので、俺自身のために使っているだけだ。
実際、今は一日に一回使うか使わないかの状況なので、他の魔法を覚えるのもいいかもしれない。
エクストラスキルは、戦士ギルドや魔法使いギルドと呼ばれる職業ギルドに行き、習得するのに2週間ほどの訓練が必要のようだ。
今はダンジョンでの実戦に時間を使いたいので、それは後回しにしようと思う。
「てめえはまず、棍と回避スキルを上げやがれ! あとはそれからだ!」
ブラッドリーに聞こえていたようだ。
「ああ、自分でもそう思う……」
なんだかんだ言って、戦闘のメインは接近戦だ。
戦闘の八割がアレックスとブラッドリーで担っていて、セシリアの魔法は強力だが、あくまで二人の手に余るような時にフォローする程度。
今の俺なんて時間稼ぎ役にしかなっていないので、もう少し接近戦で役立てるようになりたいところだ。
と言っても、棍や回避を上げるために、俺はレベルを上げてスキルポイントを獲得する必要があるのだが。
「なあ、あとどれぐらいでレベルアップするかって、どうやって分かるんだ?」
「え? キミ、たまに訳が分からないこと聞くわよね。今まで上がってきたからキミはレベル10なんでしょ?」
セシリアが怪訝そうな表情をした。
「あ、いや、そうなんだけど……、ステータス画面とかで分かったりするのかなって……」
「そんなものないわ。自分の感覚だけよ」
感覚。やっぱりこの感覚がそうか。
戦闘を続けていると、なんとなく経験値が上がっているような感覚はあった。
これがそれだと言うなら、もうすぐレベルが上がりそうだ。
「やっぱりテツヤさんは『異世界人』みたいですー」
エメラインが笑顔で言った。
「『異世界人』!? そ、そう?」
勇者クラスで異世界人。嫌われ者のオンパレードだな。
「エメラインの言う通りよ。私たちはキミが無知な田舎者って知ってるからいいけど、普通の人が聞いたら『異世界人』と勘違いするような質問よ。他の人たちに聞くときは気を付けて」
無知な田舎者って……。セシリアさん、きつい言い方ですね……。
「そうか、気を付ける。お前たちぐらいにしか聞かないよ」
『異世界人』と思われるのは面倒そうだ。
20年近く前にこの世界にやってきて、いったい何をしたのか分からないが、勇者クラスと同じぐらい良く思われていないようだった。
「無駄話はその辺にしとけ。ダンジョンに着いたぞ」
アレックスが声を掛けてきた。
今日もダンジョンでの実戦。
夏も終わりに近づき、学園が始まるまでにダンジョンへ通えるのもあと数回だ。
なんとしても夏休み中にレベルアップしたい気持ちが強く、俺は密かに気合が入っていた。
それから二日後のダンジョン中、ついに俺は11にレベルアップした。
「よっっしゃぁぁっ!!」
嬉しさが抑えられず、思わず大声を上げた。
レベルアップするのは感覚で分かり、自分が強くなったのを実感できる。
ゲームなら最初の1レベルなんて数分で上がるだろうに、俺は五か月近く掛かってしまった。
上がった数値を確認すると、
HP 96→110
MP 66→80
筋力 :102→105
生命力:102→105
知力 :102→105
精神力:102→105
敏捷性:102→105
器用さ:102→105
劇的に上がったわけではないが、HPが三桁になり、MPも『ブロック』を5回から6回使える分まで増えている。
スキルポイントも24獲得したようなので、1レベル上がるごとに24ポイントなのかもしれない。
「テツヤ、良かったな」
アレックスが冷静に言った。
前回のダンジョンでレベル14に上がったアレックスに言われるのは複雑だ。
「テツヤ君おめでとう!」
「テツヤさんが上がって嬉しいですー」
女子二人も素直に祝福してくれている。
「へっ、何大騒ぎしてやがる。レベルが1上がったところで、大して変わらねえよ!」
ブラッドリーが憎まれ口を叩く。
実際そうなのかもしれないが、俺にはスキルポイントがある。
これで俺はだいぶ強くなれるはずだ。
俺は棍のスキルレベルを4から5へ、回避のスキルレベルを3から4へ上げた。
まだスキルポイントは余っていて、回避は5まで上げられるのだが、一気に上がると変に疑われるので、ほとぼりが冷めた頃に上げようと思う。
「おい、テツヤ。てめえスキルレベルも上がったのか?」
次の戦闘後、ブラッドリーが驚いた顔で言った。
「まあな、さっきの戦闘で回避が4になった。分かるのか?」
俺はきっとドヤ顔になっているだろう。
「チッ、別に回避4なんてゴミみたいなもんってのは変わらねえが、ボンクラのくせに攻撃を避けてたからよ。これで少しはマシになりゃあいいがな」
ブラッドリーはそう言うが、俺自身ではだいぶマシになっているように感じていた。
避けられるようになったのはもちろん、筋力が上がったからか、棍のスキルレベルが上がったから、攻撃時のダメージも大きくなっている。
今までと違い、接近戦でも戦いっぽくなっていたのだ。
「フフ、夏休みの成果が出たようね」
セシリアが笑顔を見せる。
「ああ、そうだな」
このパーティに入れてくれたおかげだ。
最初の頃は、こいつらに対して腹立たしい思いしかなかったが、一緒に行動してみると、まったく嫌な感じはしなかった。
学園一年目の夏休み、俺の求めていた青春とは違うかもしれないが、充実して過ごせたのは確かだ。
こういうのも意外と……
俺はいつの間にか、今の生活が少しずつ気に入っていた。
夏休みのダンジョンもあと一回か。なんだか部活動に専念しているような気分だ。
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