第27話 街での買い物

 翌日は、各々で休憩&買い物デーということになった。


 昨日のダンジョンで手に入れた魔鉱石12個を換金すると、その中の俺の取り分は銀貨6枚。

 銀貨1枚の価値は分からないが、俺はそのお金で冒険に必要なアイテムを買い揃えることにした。


 と言っても、1回のダンジョンで手に入れたお金だ。それほどの価値があるとは思えないので、薬草を買うぐらいになると思うが。


「さすがに次はブラッドリーに譲ってもらうわけにはいかないな。薬草はたしか道具屋だったが、まずは一通り見て回るか」

 俺は目星を付けていた店に行ってみることにした。


 実を言うと、休日に散歩しかやることがないので、街のことはだいぶ詳しくなっていた。

 お金がないので店に入るようなことはなかったが、入ってみたい店はいくつか見つけていたのだ。


 最初に向かったのは、武器屋。

 さすがに今日は買わないが、どんなものがいくらで売っているのか見たかった。


「うっはー。結構でかいな!」


 入ったのはショッピングモールのような大きな商業施設。

 建物内には武器屋はいくつかあり、それぞれ扱う商品に特徴があるようで、俺が覗いたのは、初心者向けなら武器も防具も一通り揃えているお店だ。


 俺は自分の扱う棍にはどんな物があるのかが気になり、早速探してみた。

 武器のコーナーを見ると、種類によって人気差があるのが一目瞭然で、剣や槍など花形武器は品数が多く、棍はほとんど見当たらない。


「やっぱ剣にするべきだったよな……。棍なんて攻撃力ないし、両手で使うから盾も持てないし……。なんの利点もないが何でこんな武器があるんだ?」


 棍が存在する意義すら俺には理解できなかった。

 ただ、最初からスキルレベルが1じゃないのが棍しかなかったので、棍スキルにスキルポイントを振ったのだが、かなり後悔しはじめていた。

 ゲームだったらキャラを作り直していたところだ。


「お、重っ」


 飾ってあった、少しデザインがカッコいい棍を持ってみた。

 色々装飾されている金属製の棍で、俺が普段使っている武器より遥かに重い。


「こんな重くちゃ実戦では使えないな」


 俺は元の位置に棍を戻して、値札を見てみた。


 価格 銀貨58枚

 攻撃力 55

 装備レベル 15以上


「なるほどな。武器には装備レベルがあるのか。重く感じるのはそのせいだろう」


 俺は納得した。

 そうなるとレベル10の俺では、装備できる武器はほとんど選択肢がないが、買うならどれだけ貯める必要があるのかは確認できた。


 防具についてはあまり興味が湧かなかったが、デパートの高級品売り場を、買う気もないのにウロウロするような気分で、高レベル戦士向けの鎧などを見て楽しんだ。


 次に目指すのは魔法屋。

 この建物には武器屋か防具屋しかないので、足を向けたのは魔法屋がいくつか固まっている地区だ。


「いざ入ろうとすると、店が多くてどこにすればいいか迷うな……」


 俺は適当に客が多そうな魔法屋を選ぶと、店内を一通り見て回った。

 置いてあるのは魔法使い向けの商品のようで、どれも高価で俺には関係ないのだが、魔法使いじゃなくても魔法を習得したければ、ここで魔法書を買う必要があるらしいのだ。


「これはセシリアがよく使う魔法だったな」


 俺は背表紙に『エアシュート』と書かれている魔法書を手に取った。

 こげ茶色の革カバーで、開くと中は紙で出来ている。中身は読めない文字で書かれているが、読める必要はなく、契約の魔法陣さえあれば習得できるらしい。


 とりあえず魔法屋は入ってみるだけで満足だったので、次は本当の目的である道具屋に行くことにした。

 道具屋には、地図・松明・ポーション・釣り具・非常食など、冒険者に必要なほとんどのアイテムが取り揃えられていた。

 このままアレックス達とダンジョンでの冒険を続けるなら、今後お世話になることが多い店になるだろう。


「はいよ、HP回復の薬草ね」


 俺は薬草を買えるだけ買って受け取ると、道具屋を出た。


「まあ、今日はこんなもんだろ。腹が減ってきたし、寮に戻るか」


 昼飯時はだいぶ過ぎていた。

 買い食いする金銭的余裕はなく、寮に戻れば夏休み中でも食事は作ってもらえるので、戻らない理由はなかった。


 今日は晴れた暑い日だ。

 空を見上げると、透き通った青空が広がっている。

 遠くを見ると入道雲が見えるので、気候の仕組みは元の世界と変わらないのだと思う。


 街へ目を戻すと、晴れた日は人通りが多く、道端には露店のようなものが並んでいる。

 食料品、衣料品、民芸品のようなものを出している店もあるようだ。


「ん? あれは何だ?」


 紙を並べている露店が目に入った。

 この世界に来て、本屋には出会ったことがない。

 本と言えば、さっき見た魔導書か、学園で配られる教材だけだ。

 俺は気になり確認してみることにした。


「それ、新聞ですか?」

 近くまで来ると、本ではなく新聞かチラシのように見えたので、売っている男に尋ねた。


「おっ! そうだ、これは新聞さ。お兄さんは学生かい?」


「はい、そこの冒険者学園の一年生です」

 どこのクラスかは伏せておこう。


「へぇ、そうかい! 新聞なんてよく知ってたねぇ!」


「ええ、まあ。新聞って珍しいんですか?」


「珍しいもなにも、このグレスリング王国では俺たちしか扱ってないぜ!」


 新聞売りの話によると、この王国では新聞という文化は広まっておらず、数年前に活動を始めた彼らが初めてだった。

 平民にも色々な事を知ってもらい、少しでも豊かな暮らしをしてもらおうという思いで、始めたそうだ。


「自分たちで情報を集めて、自分たちで作ってるってことですか?」


「ああ、そういうことだ。王国中に仲間がいてな、それぞれの町で情報を集め、皆で持ち寄って一つの新聞を作成している。おかげで発行するのは月に数回になっちまってるけどな」


 なるほど、週刊誌みたいなものだな。

 ただ、テレビもネットもないこの世界では、貴重な情報源かもしれない。


「買ってくかい?」


「いや……すみません、手持ちは全部使い切っちゃったので」

 俺は買った薬草を見せた。


「そうかい。んじゃ、これ持ってきな」

 新聞売りが一部とって差し出してきた。


「え? いいんですか?」


「ああ! せっかく若者が興味持ってくれたんだ。読んでもらいたいのさ!」


「そうですか。じゃあお言葉に甘えて」

 俺は新聞を受け取った。


「その代わりと言っちゃなんだが、何か面白い話があったら教えてくれよ? 若者の最近の流行りとかさ」


 そういう魂胆もあったか。

「分かりました、何かあれば伝えます。この場所に事務所みたいなのがあるんですかね」

 俺は発行者情報らしき箇所を指差した。


「ああ、そうだ。頼むぜ!」


 ま、貰えるものは貰っておこう。


「はい。ありがとうございました」

 俺は軽く頭を下げ、元の道に戻った。


 歩きながら新聞を広げて見ると、思ったより出来が良かった。


 さすがに写真はないが、挿絵や図でイメージが掴みやすいように作られている。

 内容もしっかりと分野別に情報が纏められていて、生の情報がちゃんと伝わってくる。


 学生新聞程度の想像でいたので、良い意味で期待を裏切られた感じだ。

 この国の状況がかなり把握できそうだし、売っているのを見かけたら今後は買うことにしようと思う。


 今日はこの世界に来て初めて買い物をしたし、新聞も手に入れた。

 俺はいつもより少しだけ充実した休日だったと感じていた。

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