第25話 有料ダンジョン
「で、今日からはどこに行くんだ?」
学園の敷地から出るとき、俺はアレックスに訊いた。
今日からはコボルトのいる山林地帯ではなく、アレックス達が普段行っている場所ということになっている。
たぶん俺にとって、今度こそが本当のこのパーティでの戦いだ。
「王都内に入口があるダンジョンだ」
「そうか、ダンジョンか。――――ん? ダンジョン? ダンジョンって冒険者ギルドとかから許可をもらえないと入れないんじゃなかったっけ?」
「あら、テツヤ君、よく覚えてたわね」
「はは……まあな」
そうだった、セシリアに教えてもらったんだ。知ったかぶりな感じで言わなくて良かった。
「普通のダンジョンはその通りだ。だが、中には許可制じゃなく金を払えば入れるダンジョンがあるんだ。俺たちはそこに行っている」
入場料を払って入るダンジョンってことか。
「あっ、俺……、お金はないんだが……」
こいつら、まさか文無しの俺を置いていくつもりでは。
借りてでも入りたいが、返すあてがない。
「バーカ! てめえが金持ってねえのは聞いたぜ。何度もアピールしてくんな!」
ブラッドリーが歩きながら、軽く蹴りを入れてきた。
「テツヤさんは貧乏さんなんですー」
エメラインは嬉しそうに言う。
笑顔で言うことじゃないんだが……。
「お金の心配はいらないわ。支払いはパーティ単位だから、四人だろうが五人だろうが同額よ」
前を歩くセシリアは少し視線を向けると、そう言った。
「そ、そっか。なら良かった」
少し焦り過ぎたようだ。
「いいか、ボンクラ! 薬草を恵んでやるのも今日までだからな。次回からは自分で買いやがれよ!」
そういえば、山林地帯へ二回目に行ったときもブラッドリーが薬草を譲ってくれた。
今日も俺がダメージを受けたら薬草を譲るってことだろうか。
ありがたいことだが、次回だろうが何だろうが、自分で買うことは無理だ。
「そうしたいのはやまやまだが……」
「ああ? てめえまさか自分の金じゃ買わねえって言うんじゃねえだろうな?」
ブラッドリーが横眼で睨んできた。
「テツヤ君。彼は今日稼いだお金で買えるようになるって言ってるのよ」
「え!?」
俺はセシリアの言葉に驚いた。
今日稼いだお金?
ダンジョンに行ったらお金を稼げるってことか?
「今日から行くダンジョンは、有料ダンジョンだけあってそれなりに稼げるわ」
「マジか!? モンスターを倒したらお金を落とすってことか?」
完全にRPGの世界だな。
「さすがにお金は落とさないけど、お金になるものを落とすわ」
「いいかテツヤ。お前はレベルアップより前に、装備品やアイテムを揃える方が先決だ。なるべく稼ぎのいい狩場を選ぶから、使い道をしっかり考えておけ」
「お、俺なんかのために悪いな……」
前回までのコボルト戦といい、今回といい、俺の事を考えて行く場所を決めているようだ。
今まで俺を入れなかったのも、巻き込まないように気を使っていたフシもある。
俺が描いているアレックス達への印象は、少し見直した方がいい気がしてきた。
「キミが気にすることじゃないわ」
「テツヤさんが強くなればパーティが強くなるんですー」
「テツヤぁ、足引っ張るんじゃねえぞ!」
「ああ、分かってる」
セシリアやエメラインは俺に気を使ってのセリフかもしれない。
ブラッドリーの言う通り、まずはせめて足を引っ張らないようにすることだけを考えよう。
俺がどうしたいかは、その次だ。
王都と言うだけあって、ここセントグレスリーはかなり大きな街で、人口も数十万規模に思える。
王城を中心に、住宅地域や商業地域だけでなく、農地や牧草地もあり、遺跡群のようなものまである。
ダンジョンの入口は本当に街の中にあって、大きな公園に併設されている施設のように、普通の人々が行き交う場所に存在していた。
「なあ、あんなところにダンジョンがあって、みんな気にならないのか?」
俺は、公園へ向かう子供たちがダンジョンの前を通り過ぎるのを見て、セシリアに話しかけた。
「危険があるわけじゃないから、誰も気にしないわ。中からモンスターが出てくることはないし、間違えて入ることも出来ないから、普通の人々には何の関係もないとこよ」
「そういうことか」
たしかに入り口には、戦士の恰好をした守衛が2名立っていて、すぐ横に入場券売り場のような小さな建物がある。
間違えて入ることは難しそうだ。
「よし、俺たちが向かうのは地下五階だ。スライムやコボルトのような雑魚はいないから、気をつけろよ」
アレックスは前を向いたまま言った。たぶん俺に言っているのだろう。
学園内のダンジョン実戦も、この前行った山林地帯も、初めて行くときは緊張する。
今日も、ダンジョンの入口まで来ると心臓の鼓動が早くなっているのが分かるが、嫌な感じではない。
俺は緊張感を楽しいと感じるようになっていた。
アレックスがダンジョンの入口で、行く場所を告げ入場料を払った。
そしてダンジョンの入口から降り、最初の部屋のような場所の中心に描かれている魔法陣の上に立つと、映画のシーンが切り替わるように突然周りの景色が変化した。
「い、今のって……」
「転移の魔法陣よ」
俺が驚いていると、セシリアが教えてくれた。
転移の魔法陣。名前からすると地下五階までワープしたってことだろう。
「転移の魔法陣か……便利だな……」
こんな一瞬で地下五階まで来られるなんて、エレベーターより速くて楽だ。
この世界は中世ヨーロッパ程度の文化基準に見えるが、科学技術なんかよりよっぽど便利な魔法が発展しているせいで、元の世界よりある意味豊かな場所なのかもしれない。
「オラッ! 『異世界人』でもねえくせに、こんなのでいちいち驚くな!」
ブラッドリーが蹴飛ばしながら言ってきた。
「あまり踏み込むつもりはないが、テツヤは魔法をほとんど使わない地域から来たようだな」
「ま、まあな。アレックス達が知らないような田舎さ……」
「そうか。まあいい。それより、早速お出迎えのようだ」
アレックスが剣を抜いた。
周りを見渡すと、アレックスの言うように3体のモンスターが俺たちを囲んでいた。
ジャイアントスパイダーA レベル12
ジャイアントスパイダーB レベル13
ジャイアントスパイダーC レベル13
「ジャイアントスパイダー……。こんなデカい虫型のモンスターがいるのか……」
強さだけ見てもスライムやコボルトとは格が違うが、それよりも見た目が怖かった。
大型犬と同等かそれ以上の大きさで、黒とオレンジ色の縞模様の蜘蛛。見ているだけでも鳥肌が立ってくる。
こんなのが元の世界で現れたら、大騒ぎになりそうだ。
「いきなり大蜘蛛が3匹か。大漁で嬉しいぜ」
いつも一本しか持ってきてないブラッドリーが、二本の短剣を構えた。二刀流で戦うこともあるようだ。
「テツヤ君。あれ3体は私たちも余裕ないから、気を付けて!」
セシリアも杖を構えた。
よく見ると、全員いつもと違う装備だ。
いつもは学園から借りられる剣や杖を使っているが、今日は見たことがない武器を持っている。
それだけ本気だってことかもしれない。
「テツヤ、『ブロック』は早めに使え。ただし、上書きは俺が指示をするまで待つんだ」
アレックスはそう言うと、ジャイアントスパイダーの一体に攻撃を仕掛けた。
アレックスが俺に魔法を使うよう指示してきたのは初めてだ。
ジャイアントスパイダーはそれほど油断のならない相手ってことだろう。
「ブロック!」
俺は言われたとおり魔法を唱えると、3体目の敵との距離を詰めた。
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