第24話 パーティ参加

 夏休みに入ると、早速アレックス達と実戦に出向いた。


 今日の目的地は王都セントグレスリーの外。

 初めて街を出るだけではなく、まともな戦闘は二か月前のホブゴブリン戦以来というのもあり、緊張で手が震えているのが分かる。


「今日はどこに向かっているんだ?」

 俺は気持ちを誤魔化すように、セシリアに聞いた。


「王都の北にある山林地帯よ。あそこは入るとすぐモンスター生息エリアだし、コボルトぐらいしか出ないから、低レベル冒険者がよく使うらしいわ」


「コボルトか……」


 スライムやゴブリンほどの知名度はないが、雑魚モンスターの一種だった気がする。

 夏休み中は学園内のダンジョンに入れないらしいし、ちょうどいい狩場があって良かった。


「いいか、テツヤ。学園の授業とは違い、通常の実戦は長時間に及ぶ。消費MPが多いお前の『ブロック』は、残りMPを考えながら使うんだ」

 アレックスが話しかけてきた。


「あ、ああ……分かった」


 俺のMPは66。『ブロック』の消費MPは12なので、5回しか使えないことになる。

 となると、それ以外に俺が出来ることは棍棒で戦うだけだ。

 棍のスキルレベルが4、回避が3。とても役に立ちそうにない……。


「おいボンクラ! 下手に戦って無駄なダメージ受けるんじゃねえぞ! 『ブロック』を使わねえときは後ろで見てろ!」


 ブラッドリーの言いようには腹が立つが、彼の言う通りだ。

 『ブロック』を使わないなら、俺は何もせずアレックスとブラッドリーだけで戦った方が効率的だろう。


 なんの戦力にもならないなら、俺は本当にこのパーティに入って良かったんだろうか?

 一瞬、そんなことも頭をよぎるが、ここは割り切っていくしかない。彼らを利用するつもりでレベル上げに励むしかないのだ。



 セシリアの教えてくれた通り、山林地帯に入るとすぐに2体のコボルトと遭遇した。

 犬か狼に近い顔をした人間型のモンスターだ。


「敵が2体のときはアレックス達だけに任せるわ。と言っても、何もせずぼうっとしてるのではなくて、辺りの警戒や、敵に対して牽制したりはするのよ」

 セシリアが俺に指示をした。


「あ、ああ、分かった」

 俺はセシリアに素直に従い、戦闘中も周りを見渡したり、敵の視界にわざと入ったりしてみた。


 ただ、アレックスとブラッドリーに余計な援護はいらなかった。

 スライムのように一撃とは言わないまでも、2・3発で倒しているようだし、傷を負ってもいない。


「テツヤ。お前は実戦に慣れてない。今みたいに苦戦しない相手でも、戦闘をしっかり観察したり、動き回ったりしているんだ。身体で自分の役割を覚えていけ」

 アレックスは剣を納めると、そう言った。


「そういうことだ。コボルトなんてオレ様たちの相手じゃねえ。てめえの活躍なんて期待してねえから、その間に戦闘に慣れることだな」

 言い方は悪いが、俺にはブラッドリーなりのアドバイスに聞こえた。


「そうだな、そうさせてもらう……」


 コボルトなんてアレックス達なら、命の危険に晒されるようなことはない相手だ。

 この程度のモンスターと戦っているうちに、自分の出来ることを考える必要がありそうだと俺は感じていた。



 その後の戦闘も、コボルトしか遭遇することはなかった。


 3体まではアレックス達だけで戦い、それ以上のときは俺たち後衛も直接参戦する。

 『ブロック』は6体を相手にしたとき使ったが、わざわざ使うほどのことでもない気がした。


 アレックスは戦士見習いだけあって防御力が高く、コボルトの攻撃では大したダメージを受けない。

 ブラッドリーは回避のスキルレベルが高いのだろう。一度も攻撃を受けていない。


 ただ、俺だけは半分近くまでHPが減ったので、『ブロック』を使う意味があったようだ。


「テツヤ君。回避は3のまま?」

 戦闘後、セシリアが俺に言った。


「ああ、3のままだ」


「相変わらず上がりづらい体質みたいね。防御力が高いわけじゃないから、早く上がるといいけど……」


 すまんな。俺はお前らと違ってスキルポイントがないと上がらないんだ。


「たしかに、『ブロック』を使っても、こう何度も攻撃を受けるとな……。エメライン、回復をお願いしていいか?」


 俺のHPは50/96。もうすぐ半分だ。


「待てよエメライン、回復魔法なんて使うんじゃねえ! テツヤ、何勝手なこと言ってんだ!?」

 ブラッドリーが強い口調で言ってきた。


「だ、駄目なのか?」

 俺はブラッドリーの剣幕に押されてしまった。


「あ? ダメに決まってんじゃねえか!」


「テツヤ、ブラッドリーの言う通りだ。魔法は戦闘中でも瞬時に回復できるから、それ以外はなるべく薬草を使え」


 なるほど、そういうことか。

 ブラッドリーもアレックスのように説明してくれれば納得するんだが。


「わ、分かったけど……、薬草持ってきてなくてな……」


「なんだと、このボンクラ! てめえは授業で何習ってきたんだ!? 薬草なんて冒険に出るなら必須の持ち物じゃねえか!!」


「そうなんだが……、買う金がないんで……」


 恥ずかしくて言いたくなかったが、俺は文無しだ。

 もともと転生したときに自分の持ち物は何もなく、寮の荷物の入った箱にはお金っぽいものはなかった。

 ただ、寮生活するうえでは困らなかったので、別にそれでもいいかとも思っていたのだ。


「キミ、薬草を買うお金もないって、どうやって学園に入ったの? 冒険者学園って入学するのに結構お金が掛かるんだけど……」


「はは……まあ……なんとか。」

 俺はセシリアの言葉に、半笑いで返した。


「てめえが貧乏なのは分かったが、だからって簡単に回復魔法に頼るんじゃねえ! 分かったな!?」


 ブラッドリーはそう言って、何かを投げつけてきた。

 手に取ってみると草のようだ。


「これってもしかして……」


「分かってるとは思うけど、薬草よ」

 セシリアが確認するように言った。


 やっぱりそうか。

 ブラッドリーは俺にくれたのか?


「ブラッドリー、いいのか?」


「オレ様は、てめえと違ってコボルトの攻撃は当たらねえからな!」

 目も合わせずブラッドリーは言う。


「わ、悪いな……助かる……」


 まさかブラッドリーに譲ってもらうとは思っていなかった。

 彼に借りがあるままは気に入らないので、どこかで返す必要がありそうだ。


 俺は薬草を口に入れた。


「にがっ」


「薬草ですからねー」

 エメラインが楽しそうに言った。


 良薬は口に苦し。

 どこの世界でも同じってことか。


 HPが少しずつ回復しているのを確認した。


「テツヤ、行けるか? まだ時間はある。もう少しコボルト狩り続けるぞ」

 アレックスの言葉に首を縦に振ると、皆が進みだした。


 その日は陽が暮れる直前まで戦闘を続けてから、学園に戻った。

 さすがにそう簡単にはレベルが上がったりはしなかったが、実戦にはだいぶ慣れてきたし、経験値を稼いだ実感はあった。



 それから一日休憩を置いて、その次の日も同じ山林地帯で戦闘を続けた。


 これだけ同じ敵と何度も戦うと、強くなったわけではないのに受けるダメージは減ってくる。

 敵との距離だったり、パーティ内での連携だったりを上手く図れば、レベルが上がらずとも少ないダメージで戦えるのだ。


「今日も同じ場所だが、セシリア達は今までもここで実戦をやってたのか?」

 俺はアレックスとブラッドリーの戦闘を見ながら、セシリアに尋ねた。


 俺がいない四人パーティでも、このコボルトぐらいなら相手にならないように感じる。

 このぐらいのモンスターと戦って、アレックス達のレベルで意味があるのか疑問だった。


「ここはキミと来たのが初めてよ。コボルト程度じゃ戦っても仕方ないもの」


「え? そうなのか?」


「なに言ってやがる。てめえがいるからここにしてんだろうが!」

 コボルトを倒したブラッドリーが近寄ってきた。


「どういうことだ?」


「どういうこともクソもねえよ。てめえみたいな実戦経験の少ないボンクラが慣れるには、コボルトぐらいの相手じゃねえと無理だろうがよ!」


 ブラッドリーに言われ、実戦経験もなくレベルの低い俺に合わせてここを選んだってことに、ようやく俺は気づいた。


 ここでの戦闘ではアレックス達は二日間ともほぼ無傷。

 同時に多数相手をするときだけセシリアが魔法援護をするが、エメラインの回復に頼ったことは一度もない。


 俺さえいなければ、こんなところに来る必要はないのだ。

 完全に俺がこのパーティのお荷物になっている。


「てめえ、なに暗い顔してやがる!」


「って」

 ブラッドリーが尻を蹴とばしてきた。


「まさか、てめえ程度でオレ様たちの役に立つなんて思ってねえだろうな? 笑わせるなよ? こっちはてめえに期待なんかしてねえよ! 余計なこと考えねえで、オレ様たちにタンカ切った気合で強くなってみせろや!!」


「テツヤ。ブラッドリーは言い過ぎだが、間違ってはいない」

 アレックスも近づいてきた。


「今のお前に俺たちが頼ることはない。だがそれはあくまで今のお前だ。こっちもテツヤが役に立つようになってもらった方が助かるのも確かだからな。まずはお前のためにここへ来た」


「最初はだれでも未経験ですー」


「私たちだってキミのようにレベル10の頃はあったのよ」


 なんだか慰められているというか、見透かされているというか……。

 卑屈になるなって言いたいのだろうけど。


「気を使わせて悪いな。おかげで慣れてきたようだ」


「そうみたいだな。これだけ経験すれば大丈夫だろう。次からは俺たちがいつも行く場所に変えるぞ」


「準備完了ってことね!」

 セシリアが俺の背中を叩いて言った。


 これからが本番ってことか。

 俺は改めて気が引き締まる思いだった。

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