第23話 強くなりたい思い
授業が終わると、俺はブラッドリーたち三人を呼び出した。
「おうおう、テツヤの分際でオレ様を呼び出すとは何様のつもりだ!?」
ブラッドリーが俺の襟を捻った。
「な……なんでお前らのレベルが上がってるんだ!」
俺はブラッドリーの手を掴むと、強く言った。
「チッ、そういうことか。『慧眼』ってのは面倒くせえなぁ」
ブラッドリーが俺の手を振りほどく。
「三日前の授業のときは12だったじゃねえか! なのに今は三人とも13だ! お前ら裏で何やってるんだ!!」
「てめえには関係ねえよ」
「関係ないだと? ふざけんな! こっちだってレベル上げしたいのに、お前らが模擬戦やダンジョン実戦を真面目にやらないから上がらねえんじゃねえか! お前らのせいなんだよ! なのにお前らだけレベル上がってるとか、納得できるか!!」
「は? てめえ何ひとのせいにしてんだ? レベル上げしたきゃ自分で努力すりゃぁいいだろうが!? オレ様たちに手伝ってもらわねえと上げられねえのか?」
「くっ……」
正論だ。ブラッドリーの言う通りだ。
たしかにレベル上げをしたければ、他人に頼らず自分で努力すべきだ。
俺はレベル上げのために何もしてないし、こんな若者たちに頼ろうとしていた。
ブラッドリーが言うのも当然だ。
当然だが……、どう考えても納得はできない。
理屈がどうのの前に、この感情を抑えられない。
胸糞悪くて吐きそうだ。
「ブラッドリー、言い過ぎだわ」
俺を見かねてか、セシリアがそう言った。
「あ? どう考えてもこのボンクラが見当違いなんだろうが!」
「キミの言うことも分かるけど、テツヤ君が冒険者の知識に乏しくて、一人でレベル上げなんて出来そうにないことぐらい分かるわよね? それに、テツヤ君じゃなくてもレベル10が一人でレベル上げなんて難しいわ」
「……チッ」
「アレックス、どうするの?」
「これは俺たちの問題だ。関係ない奴を巻き込みたくないが……」
いつの間にか呼び出していないアレックスが近くにいた。
「テツヤ。お前はなんで学園を辞めないんだ? こんな勇者クラスに何を求めている?」
「なんで? 辞めないことがそんな悪いことか? 勇者クラスに何かを求めちゃダメなのか? 俺には学園を辞めても、行く場所なんてないんだよ! 勇者クラスだろうが何だろうが、冒険者学園にいるしかないんだ!」
「……学園を辞める気は、ないんだな?」
「ああ、ない!」
そう、その通りだ。
言いながら俺は改めて自覚した。
元の世界で死んで転生してきた俺には、帰る場所なんてない。
この世界では、今いるこの冒険者学園が俺の全てだ。
「へっ、なんだこいつ。よくこんな学園にそこまで必死になれるな」
「よせブラッドリー。テツヤなりに事情があるんだろう」
「テツヤさんだって一生懸命なんですー」
エメラインがアレックスに同意した。
「たしかにここまで必死なのは理解できないけど、学園に残る事情はありそうね。アレックス、教えてあげたら?」
セシリアがアレックスに視線を送った。
「そうだな。テツヤ、俺たちは前に言った通り、授業をまともに受ける気はない」
「ああ、聞いたよ……」
「だが、あいつらの思惑通りになるつもりもないんでな、隠れて実戦経験を積むことにした。授業は手抜きだが、強くなることを諦めたわけじゃない」
「あいつら?」
「そこはキミが知る必要はないわ。というか知らないでいた方がいいと思う」
セシリアが口を挟んだ。
どうやら何かの思惑で、こいつらは授業をわざとサボってきたみたいだ。
模擬戦やダンジョン実戦はせず、そのかわり隠れてどこかで実戦をしているようだが……。
「な、なあ。それならその隠れてやってる実戦に、俺も混ぜてくれよ? 授業は手抜きのままでいいからさ」
「やっぱりそうなるか……」
アレックスが三人へ目をやった。
「オレ様は反対だ。ボンクラは邪魔だ」
「前も言ったけど、テツヤ君の能力はパーティ戦向きだわ」
「仲間外れは可哀想ですー」
ブラッドリーたちがそれぞれ意見を言った。
決定権はリーダーのアレックスにあるようだ。
「正直、テツヤには学園を辞めてほしかった。この学園の勇者クラスでは、失うものがあっても得るものはない。だが、テツヤがそこまで言うなら、残るというなら仕方ない」
「じゃ、じゃあ?」
「ああ、お前を仲間に入れることにする。夏休みに入っても実家に戻らず実戦をするが、ついてこられるか?」
「も、もちろんだ! 俺に帰る場所はないって言っただろう!」
「チッ、足引っ張るんじゃねえぞ!」
「五人パーティになれば安定度が上がるわ」
「今日からテツヤさんも仲間ですー」
仲間か。
勇者クラスへクラス落ちし、アレックス達とパーティを組んでから三か月以上が経つが、初めて彼らとパーティを組めた気分だ。
彼らの言っている『契約』や『あいつらの思惑』というのが気にならないこともないが、こうなったらもうどうでもいい。
今の俺に必要なのは強くなることだ。
冒険者学園ではもう諦めていたが、強くなるための手段を手に入れた。今はそれだけで十分な気がした。
「おい、テツヤ。こうなったらしっかり役立てよ! てめえ自身は弱えんだから、使えねえままだったら許さねえぞ!」
ブラッドリーはそう言って去っていった。
「ごめんね、口が悪くて。でも彼の言う通りだわ。実際キミはまったく戦力にならないのも事実。強くなりたいみたいだけど、これからどうしていくか考えるべきよ。頑張って!」
セシリアは厳しい口調だが、何故か優しさを感じる。
「エメラインも戦力にならないので、テツヤさんと同じでーす!」
いやいや、回復魔法はパーティには必須だ。
「焦ることはない。俺たちだって見習いだ。どう強くなっていくか、ゆっくり考えていけばいい」
アレックスが俺の肩に手を置き、そうアドバイスすると寮へ向かって行った。
「はは……」
なんだか若者に諭された感じになって、変な気分だ。
まあ、この世界では俺は一年目。彼らはある意味、先輩だ。
年下だろうと、彼らから学ぶこともあるだろう。
俺はこの夏休み、彼らと一緒に強くなろうと決心した。
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