第20話 ホブゴブリンとの戦い
2体のホブゴブリンにはアレックスとブラッドリーがそれぞれ攻撃を仕掛け、残りの1体はセシリアが魔法で攻撃をする。その隙にエメラインが勇者クラスのメンバーを下がらせた。
連携のとれた戦いだ。
「テツヤくん! ホブゴブリンのレベルは?」
セシリアが俺に聞いてきた。
「3体とも14だ」
「ホブゴブリンですら通常よりレベルが上がってるわね。二人とも、聞こえた?」
「ああ、了解だ」
「へっ、どうってことねえぜ」
アレックスとブラッドリーが答えた。
こいつら、このままホブゴブリンを引き受けるつもりか。
あれだけやる気がなかったくせに、自分たちよりレベルが高い相手に何考えてやがる。
俺は元の世界にいた頃、人助けどころかボランティアにも参加したことがない。
誰かが傷ついたりするニュースを見れば、もちろん心を痛めたりもするが、だからと言って自分で何かしようとなんて思ったことがない。
直接自分が被害者にでもならないかぎり、俺の知ったことではない。
公園のゴミ拾いぐらいは参加したことがあるかもしれないが、それはあくまで何かしら自分に利益があると踏んでだ。
自分が損するかもしれないのなら、他人のために何かをやろうなんて考えたこともない。
ところが目の前の若者たちは、クラスメイトを助けるために自分よりレベルの高いモンスターに立ち向かっている。
普段は無気力なくせに、こんなときだけヒーロー気取りだろうか。
俺はそんな彼らを立派だとも思わないし、褒めたいとも思わない。
むしろ腹が立って仕方がない。
彼らは俺より強いとはいえ、同じパーティとして俺だけ逃げたら恰好が悪い。だからと言って実戦経験のない俺が参戦して、命の危険に晒されるのも納得がいかない。
いつものように何もしないでいてほしかった。
「テツヤ、3体目を任せてもいいか?」
アレックスがホブゴブリンと戦いながら言った。
3体目?
セシリアの魔法を受けた相手が、女子二人に向かって行っている。
あれを引き受けろというのだろうか。
「ふざっ、ふざけんな! 勝手に戦闘始めて、あんなレベル高いモンスターの相手をしろだって!?」
俺は思わず言い返した。
「アレックス! こんな弱い奴に頼んな! オレ様たちだけで十分だ!」
ブラッドリーが怒鳴った。
「何だよお前ら! 俺が弱いのは、お前らが模擬戦とかを真面目にやらないからだろう!? お前らのせいだろうが!!」
「ああ? なんだとテツヤぁ!?」
「ちょっ、ちょっと、こんな時にやめてよ! たしかにレベル10のテツヤ君じゃ厳しいし、私が引き受けるわ」
セシリアはそう言うと、杖を構えてホブゴブリンに立ち塞がった。
「セシリアさんが戦うと攻撃魔法の援護がないですー」
エメラインが俺を見て言った。
なんだよ今の視線は。
俺が行けばいいのにってことか?
クソっ、イライラする。
なんでもかんでもお前らだけでやってるくせにこんな時だけ!
俺はエメラインから視線を逸らすと、戦っている三人へ向いた。
さすがにスライムとは違い、アレックスとブラッドリーでもダメージを受けている。1対1の戦いでは押されてさえいるように見える。
「きゃっ!」
ホブゴブリンの持つ大きな木の棒が、セシリアに直撃して吹き飛んだ。一撃で20のダメージを受けたようだ。
やっぱり、魔法使い見習いのセシリアでは、近接戦闘は無理だ。
一発で20も喰らうようじゃ、そんなに長い間もちそうもない。
クソっ、どうすりゃいいんだ?
このまま黙って見ているか?
危険を冒して戦うべきか?
一番弱い俺がか?
正直、俺が戦う義理はない。
彼らを仲間なんて思ってはない。
こいつらなんて、俺から見れば所詮は異世界の人間だ。
どうなろうと知ったことではない。
アレックスだって俺のこと何とも思ってなさそうだ。
ブラッドリーはムカつくし今でも殴ってやりたい。
エメラインは……いつも笑顔で可愛い。悲しい顔のエメラインなんて見たくない。
セシリアはとても親切にしてくれた。彼女がいなかったらもっと無知なままでいただろう。
やべえ、恰好つけてえ……
せっかくこの世界でやり直せたんだ……
もう少しだけ青春がしてえ……
もう少しだけ……
……
「ああ、くそぉ! ブロック!!」
俺はパーティ全員の防御力を上げると、棍棒を握りしめてセシリアと対峙するホブゴブリンに突進した。
「はああぁぁぁぁっ!!」
ホブゴブリンに棍棒が命中したが、与ダメージは3。
とても倒せそうにない。
「テツヤ君! 残りの2体を倒すまでそのまま引き付けておいて!」
セシリアが立ち上がりながら言った。
俺で倒すのは無理だ。こうなったらそうするしかない。
俺は少しでも時間を稼ぐために、距離を置いて戦うことにした。
「グエェェェェ!」
ホブゴブリンが奇声を上げながら攻撃してきた。
「!? 避けっ……」
想像より速い動きだったため、俺はホブゴブリンの一撃を受けた。
そんなに痛くない?
受けたダメージも5。
『ブロック』の魔法が効いているようだ。
アレックス達を見ると、受けるダメージが2か3。さっきまでの半分以下になっている。
これならいける!
俺はそう直感した。
俺が3体目を相手にしている間、セシリアはアレックスが相手をしているホブゴブリンに攻撃魔法を撃つ。
まずはそいつから倒そうというのだろう。
アレックスとセシリアが戦っている相手は、あと一発か二発で倒せるところまできた。
ブラッドリーもその間に、一人で相手の半分近くまでHPを削っている。
さすがだぜ、もう少しだ。
俺は逆に、あと一発でHPが半分を切りそうだ。
回避のスキルレベルが低いため、ほとんど避けることができない。
「ぐはっ!?」
ホブゴブリンの攻撃がまた命中した。
これでHPは46/96。
「??」
急に身体が温かさに包まれると、HPが少し回復した。
「HP半分になったので回復させましたー」
エメラインが笑顔を向ける。
HPが半分になった?
『慧眼』を持ってないのに、俺のHPが見えたのか?
「テツヤ君、ブロックの効果が切れるわ! 上書きして!!」
セシリアが声を上げた。
俺は言われるがまま『ブロック』をもう一度唱えた。
そういえば模擬戦のときに、『ブロック』が切れたとセシリアが叫んでいたのを思い出した。補助魔法は制限時間があるってことだろう。
それからすぐ、戦闘は決着がついた。
アレックスとセシリアがホブゴブリンを倒し、ブラッドリーに加勢すると、一瞬で2体目を退治した。
あとは残り1体を全員で総攻撃。
俺たちはレベル14のホブゴブリン3体に勝利した。
「ふう……」
俺は腰が抜けるようにその場に座り込んだ。
俺からすると、これが初めてのまともなモンスター戦だ。
生徒同士の模擬戦とは違う緊張感がある。
「テツヤ君、助かったわ!」
「テツヤさん活躍ですー」
セシリアとエメラインが笑顔で言うと、俺は少し嬉しくなった。
「はあ? 大して活躍してねえじゃねえか!」
ブラッドリーが口を挟む。
「何言ってるの? 『慧眼』で相手のレベルが事前に分かるのは戦術を立てやすいわ。それに『ブロック』の魔法には助かったでしょ?」
「ああ、その通りだ。補助魔法で戦局が変わった」
セシリアの言葉にアレックスが賛同した。
正直、物凄い怖い思いをした。
モンスターなんて猛獣と戦っているようなものだ。
ホブゴブリンと視線が合うと、怖くて怖くて仕方なかった。
そんな思いをしたけど、俺は安堵感と同時に達成感もあった。
今までと違い、一緒に戦った実感があるからだろうか。活躍した気になっているからだろうか。
自分でもよく分からないが、逃げないで良かったと感じていた。
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