第19話 遭遇戦

 今日は全クラス合同のダンジョン実戦。

 担任の話では、今日を最後に当分休止ということだ。


 勇者クラスのみのダンジョン実戦にアレックス達は参加しないので、俺が参加できるのは当分なさそうだ。

 レベル上げをする機会が他にないので、今日は少しでも経験値を稼いでおきたい。


「それでは皆さん、そろそろ勇者クラスの番になりますので、パーティを組んでください」

 担任が声を掛けると、それぞれパーティを結成した。


 この世界では、ゲームと同じようにパーティというシステムがある。

 倒したモンスターの経験値はパーティ内で分配されたり、『慧眼』がなくてもパーティステータスでメンバーのレベルを確認できたりする。


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 パーティランク -

 リーダー

  アレックス  レベル13

 メンバー

  ブラッドリー レベル12

  セシリア   レベル12

  エメライン  レベル12

  テツヤ    レベル10

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 パーティを組む必要がある模擬戦やダンジョン実戦をアレックス達が嫌がるのは、レベルを見られるのが嫌だったからなのかもしれない。


「前から思ってたんだが、パーティランク『-』ってどういうことなんだ?」

 俺は知恵袋セシリアに尋ねた。


「パーティランクは冒険者ギルドの貢献度のことよ。まだギルド登録してない学園生は表示されないの」


「なるほど、そういうことか」


 俺は説明内容より、何でも知っているセシリアの知識に感心した。

 それに、仲間外れの俺の質問でも、いつも嫌がらずに答えてくれる。

 女子としては気の強いところが玉にきずだが、外見も可愛いし、こんな子と恋愛をしてみたかった。

 そんなことはありえないと分かっているが。


「おいテツヤ! トロトロしてねえで行くぞ!」

 俺たち第四パーティの順番のようだ。

 ブラッドリーが最初にダンジョンに入って行く。


 トロトロしてねえでって、中に入ったところで手を抜いてのんびり進むくせに。


 俺はリーダーでもないブラッドリーの声に従って、ダンジョンへ降りていった。



 ダンジョンでは今回もスライム戦ばかり。このダンジョンの地下一階ではそれしか出現しないということだろう。

 戦闘はいつもどおりアレックスとブラッドリーだけで行う。

 何もすることがなく、いったい何しに来てるんだかと思わなくもないが、それなりに慣れてきた。


「おいテツヤ」

 スライムとの三戦目が終わると、ブラッドリーが俺を呼んだ。


「ん? なんだ?」


「いや……なんでもねえ……」


 ブラッドリーにしては歯切れが悪い。

 何かが引っ掛かるような様子を見せたが、すぐにまた進みだした。


「ねえテツヤ君。スライムのこと、ちゃんと見ておいて」

 セシリアがそう言って、ブラッドリーについていった。


 スライムをちゃんと見ておいて?

 なんだそれ? どういう意味だ?


 セシリアの言っていることがまったく理解できなかった。

 スライムを見て何かを学べってことだろうか。

 何を言っているのかわざわざ確認するほどでもないので、俺は次の戦いからスライムを言われたとおりちゃんと見ることにした。


「おいテツヤ!」

 さらに三戦を終えると、少し強めの口調でブラッドリーが声を掛けてきた。


「なんだよ、さっきから」


「スライムのレベルはいくつだ?」


「ん?」


「だから、スライムのレベルはいくつだって聞いてんだ!」


 は? 何を言っているんだ、こいつ。

 スライムのレベルがどうしたって言うのか。


「スライムのレベル? 7か8みたいだけど」


「クソっ、やっぱりか!」

 ブラッドリーが強く苛立ちを見せた。


「スライムのレベルが何かあるのか?」


「ああ? 相変わらずてめえはボンクラだな!」

 ブラッドリーが吐き捨てるように言った。


「キミ、前回までのスライムのレベル覚えてる?」


「前回まで? 前にダンジョンに来た時ってこと? んー、そういえば、たしか5か6だったような……」

 そんな必死で見ていたわけじゃないので、記憶が曖昧だ。


「そう、スライムはレベル5か6なのよ。なのに今日のスライムは少し強いの」


「今日は皆さん苦戦してるんですー」

 エメラインが困り顔で言った。


「なんだとお! エメラインてめえ、寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ! オレ様が苦戦するわけねえだろうが!!」

 ブラッドリーがむきになって返す。


「スライムのレベルが7か8だと、そんなに問題なのか?」

 最弱モンスターって意味じゃ大差ないと思うが。


「スライムのレベルは絶対に5か6なの。それ以外はありえないのよ。もしあるとすれば、何か意図的なことでもない限り……」


「意図的……?」


 なんだか感じの悪い言葉だ。

 最近、その言葉を連想させる出来事が多い。


「少し嫌な予感がするわね」

 セシリアは聞き取れないような小声で言った。


「ああああぁぁぁぁっ!」

 突然、前方から大声が聞こえた。


 ちょっと不穏な空気のタイミングだったので、一瞬ビクッとしてしまった。

 一つ前のパーティが近くで戦闘中なのだろう。


「おいおい、まだこの辺ウロチョロしてる奴らがいるのかよ」

 ブラッドリーが声の方向を見て言った。


 ブラッドリーの言いたいことは分かる。

 うちのパーティは何せ手抜きパーティなので、ゆっくりと進んできた。そんな俺たちに追いつかれるなんて、どんだけ遅いんだってことだ。


「様子がおかしい。行ってみるぞ」

 アレックスが気になる台詞を吐いて走り出した。


「お、おい!」

 ブラッドリーが面倒くさそうに追いかける。


 この流れ……、なるべくなら関わり合いたくないんだけど……。


 俺は手のひらに汗をかいているのを感じながら、アレックス達に続いた。 



 声がした場所まで行くと、少し広めの部屋で、勇者クラス第三パーティが戦闘中だった。

 彼らは勇者クラスと言えども学園生だ。みなレベル10なのでスライムなんかに苦戦することはない。今日のスライムが例えいつもより強かったとしても。


「お、おい……、戦ってる緑の奴らって……」


 ブラッドリーが戦っている相手を見て驚いた様子だ。

 それは地下一階にはいないはずのモンスター。


「セシリア、あれが何か分かるか?」

 アレックスが剣を抜く。


「え、ええ……。あれは……ホブゴブリンよ」


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 名前 ホブゴブリンA

 レベル 14

 種族 ホブゴブリン

 HP 176/176

 MP 71/71

 攻撃力 51

 防御力 29

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 セシリアの言う通り勇者クラス第三パーティは、ホブゴブリンというモンスター3体と戦っていた。

 レベル14。レベル10の彼らにとっては、明らかに格上のモンスターだ。


 全身が緑色の肌で、尖った鼻と耳を持つ醜悪な姿。

 スライム以外のモンスターを初めて目にし、俺は脚が震えていた。


「テツヤ! 彼らの残りHPは?」

 アレックスが俺に尋ねてきた。


 彼らの残りHP? 勇者クラスの奴らのことか?


 俺は戦っているパーティのステータスを確認してみた。


「ぜ、全員一桁だ……」


「まずいな、すぐ助けるぞ!」

「チッ、仕方ねえなー」

「見た目より素早いから気を付けて!」

「助けるですー」


 アレックス達四人は躊躇せずホブゴブリンに向けて走り出した。


 え? 助けるつもりなのか?

 俺たちは冒険者ってわけじゃないんだぜ? 単なる学生なんだぜ?


 ホブゴブリン相手にビビっている俺は、勇気あるパーティメンバーに怒りすら覚えた。

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