第44話  終幕 世界の中心で酒を飲む

「では、変態クソ野郎ラスプーチン撃退と、玄女の歓迎ということで、かんぱ~い」


 春日が音頭をとって、皆で杯を掲げた。

 春日はさすがに甘酒にしておいた。

 文句を垂れていたが、いろいろうるさいんだぜ? 世間は。

 光が買ってきた丸い包みを開けると、寿司と点心がみっちりと詰まっていた。

 これには一同、感嘆の声を上げた。

 しかし、組み合わせ、おかしくないか?


『清国からの心付けだ。遠慮はいらない』

「え、どういうことっすか?」

「光の奢りだとよ」

「え、じゃタダなんすか?」


 春日はえらく盛り上がっている。

 ちょとは遠慮しろよ、と釘を刺そうと思ったが、今回大分出費があって、むしろ必要経費請求したいくらいなので、俺も目一杯食うことにした。


 いやいやいや、ちょっと待て。そのまえに確かめておきたいことがあるじゃないか。


『ていうか歓迎会って、玄女、どういうこった?』

『うん、しばらくここで世話になることにした』


 それはもう決定事項なのかな?


『このままラスプーチンを追って、ロシアなりどこなりと行ってもいいんだが、いかんせん世界は広過ぎる。当てもなく彷徨っても埒が明かないだろう。その点、ここ東京にいればなにかしらの情報が入ってくるかもしれない。それに一番の問題は旅費が無いのだ』 

『旅費が無い』

『ああ。旅費どころか生活費すら無い。だからここでもうしばらく世話になろうと思う。よろしく頼む』


 玄女はそういって自信たっぷりの笑顔で握手を求めてきた。

 それを光と春日が注視している。

 え? なにこれ。ここで玄女の無茶な申し出を受け入れて手を取らないと場が収まらない感じ?


「師匠、どうしたんすか?」


 春日の奴、言葉わかんねーくせに、なに期待してんだ。


「・・・わかったよ」

 俺は差し出された玄女の手を握った。

「とっとと旅費を稼ぎやがれ」


 春日と光は飛び上がって喜んだ。

 まったく、こうするしか他に選択肢がねーだろ、クソが。

 皆が盛り上がって、酒を飲み、寿司と点心をつまんだ。

 もちろん春日は甘酒だが。

 俺もそんな光景を苦笑しながら眺め、杯を傾けた。


 この辛気臭い場所も、いつの間にやら明るくなっちまったぜ。

 ラスプーチンは榎木がいうように、おそらくロシアに戻ったのだろう。

 玄女にはあえて伝えないでおこう。

 あいつがロシアに渡ったところで、どうこう出来ることじゃない。

 きっとロシアでは大きな動きがあるに違いない。

 それこそ死人の革命が起こるかもな。

 まぁ、何度もいうようだが、知ったこっちゃないだよ。

 俺はこうして美味い酒を飲む。

 いつまで続くかわからない、この賑やかさの中で。

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明治幻想奇譚 不死篇 不死団の章 藤巻舎人 @huzimaki

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