第43話  春の夕暮れ

「ただ今っす」


 裏の勝手口から、春日の声が聞こえてきた。


「いや~、まだまだ寒いっすねぇ。いったい春はどこへやら」


 そんなことを呟きながら店の方にやってきた。

 なんだ、最近みた寄席にでも影響されたのか?


「おう、お帰り」

「あれ、誰か来てたんすか? お客さん?」


 テーブルの上に湯飲みが二つあるのを見つけて、春日が訊いてきた。


「いや、いろんな意味で客ではなかったし、なにも売れていない」

「はぁ、なんすかそれ? トキジクさん、ちゃんと店番してくれてたんすかぁ?」

「てめぇ、ふっ飛ばすぞ」

「やっぱりトキジクさんに店番は、荷が重過ぎましたかねぇ・・・」


 ぶつくさ文句をいいながら、春日は湯飲みを片付ける。

 落ち着け、落ち着け、俺様は四百歳。相手はたかだか十四、五年生きただけのくそ餓鬼だ。俺は大人、ていうか四百歳、そうだ、息を大きく吸ってぇ、吐いてぇ。


「ただいま帰った」


 今度は店の引き戸が開いて、玄女が這入ってきた。


「邪魔をする」

 玄女の後から李光も這入っていた。

「春日くん、持ってきたヨ」


 丸くて大きな包みを掲げてみせる。


「わぁ、ありがとうございまっす」


 店の奥から春日が礼をいった。

 なんだそれは、と訊こうとしたら、玄女が「酒を買ってきた」といって酒瓶をテーブルの上に置き、ソファに腰を下ろした。

 光も円形の包みをテーブルに置いて座った。

 心なしか包みからは良い匂いがする。


『光、これは食いもんか?』

『ああ、頼まれていたやつだ』

「春日ぁ、お前が頼んだのか?」

「そうっすよ」


 奥から春日は皿や箸などを盆に載せてやってきた。


「今夜はビチクソ・ラスプーチン退散と玄女の歓迎のお祝いっす。このまえいったじゃないすかぁ」


 え、いった?

 ホントに?

 知らないんだけど。

 ていうか玄女の歓迎会ってなに?

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