第39話 言い逃れ
「君とは、一度じっくり話をしてみたいと思っていたんだ」
その美しい青年は、どこか遠くに居る存在へ話しかけるようにいった。
しかし声は確実に俺に向けられていた。
「だったら、コレを外してもらえると、俺も話しやすくなるんですがねぇ」
俺はそういって、金属製の手枷をされた両手を持ち上げて見せた。
見せたといっても、相手に見える訳ではなかった。
「済まないね、心配性の部下たちで。もっとも君にそんなもの意味が無いとは思うのだが」
後ろで一つに纏められた長い黒髪、秀麗な顔立ち、常に閉じられた瞼。
全身から溢れ出る凜とした空気。
「済まないついでに、このまま家に帰してもらえると嬉しいんですが」
軽口を叩いてみたが、金縛りのように体を貫く緊張は解けない。
コイツの前で油断してはならい、と本能が叫んでいる。
雨夜の君。
現皇王、スメラミコトの消された弟。
どこかマグナス卿と似てるぜ。
つまり、やりづらいってことだ。
「流石はトキジク君。口が達者だ。四百年以上生きているっていう噂は、あながち大袈裟ではないのかな?」
俺はだんまりを決め込む。
下手なことを喋らない方がいい。これは警察への正しい対応だ。
雨夜は軽い溜息をついた。
「あの港で、いったいなにがあったんですか? 倉庫の二階からは多数の変死体、そして一隻の旅客船の沈没、その前には巨大な竜巻の発生も目撃されています」
俺はいろいろ考えた。本当にいろいろ考えた。あらゆる可能性を考慮し、天秤にかけた。
で、最終的に、ある程度正直に話すのが一番害が無いだろうと結論付けた。
飽くまである程度、に。
どうせ嘘をいっても見破られるんだから。
他の奴らだって喋るしね。
「まぁ、話は少々長くなるんすけど・・・」
「にわかには信じられない話ではある」そこで雨夜は言葉を切った「だがしかし、ありえないといい切ることも憚れる。現にラスプーチンなるロシア人は、警察でも目を付けていた」
「その割にはいろいろやらかしていたけどな」
「そう責めないでくれたまえ。こちらにもいろいろあるのだ」
「しかし一歩間違えればかなりの被害が出ていたと思いますがね。この東京に、あるいはこの国そのものに」
これで押していこう。俺たちは悪くない。悪いのはラスプーチンという犯罪者を放置していた国の対応だ。
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