第37話  不老不死探偵の助手 其の拾四

「このままおまえの首を喰い千切って終わりだ」


 首の後ろ辺りからそう声がした。


 正に、終わった。

 全身の血の気が一瞬で退いていくのがわかった。

 死よりも恐ろしい絶望。

 オレは、生ける屍になるのか。

 師匠・・・。


「チェストォォォォォ‼」


 離れた所から師匠の声がして、なにかが顔の横を掠め、鈍い衝撃が伝わってきた。


「はっ?」


 刀・・・だ。

 今、オレの顔の直ぐ側に刀が刺さっている、と思ったらいきなり刀身から炎が上がった。


「熱っ!」


 オレは反射的に飛び退いた。

 後ろを振り返ると、額に刀が刺さった男が立っていて、顔から炎上し始めていた。

 背後から死人に襲われそうだったことよりも、刀危なっ。

 師匠のバカさ加減、全然治らねーの。

 刀なんてぶん投げて、オレに刺さったらっどうすんだよ。


「うぉぉぉぉお‼」


 今度は雄叫びと共に死人の群れから師匠が飛び出してきた。

 三つの顔に六本腕の姿でいきなり近付いて来られると、流石に怖いだろ。

 全力で逃げ出したい。


『玄女、光、春日を連れて船を降りろ!』


 え? なんていった?


「春日、あいつらと一緒に陸に飛べ」


 うわ、間近で見ると増々不気味だ、師匠の姿。

 もう完全に死人より凄いことになってるよ。


「ああ? なに見てんだコラ」


 三面の顔が同時にこっちを睨んだ。


「なななんでもないっすよ」


 そこへ玄女とクヮンさんがやってきた。


『なにがどうした?』


 二人とも、戦闘で荒い息をしている。


『急いで船から降りろ。しゃらくせぇから一気にこの船を沈めてやる』

『どうやって?』


 クヮンさんが訊いた。


『いいから早く飛べ!』

「師匠!」

「あぁ?」

「向こうで待ってますからね」


 これだけは確認しておかなきゃならなかった。


「おう。あと、全部終わったら説教だからな、覚えとけよ」

「うっす」


 オレたちは、この船に乗ったときのように互いに手を繋ぎ、拒絶の能力と飛行術で、飛び立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る