第36話  不老不死探偵の助手 其の拾参

 船の甲板の上、トキジクさんは異形の姿で次々と死人たちを斬り付け、燃え上がらせていく。


『凄まじいな。正に魔神だ』


 クヮンさんがその光景を見て、何事か言葉を漏らした。

 意味わからないけど、驚いているのは伝わってきた。


『私たちも、やろうか』


 玄女がなにかいった。


『だな。アイツにばかりいい格好させるのは癪だ』


 クヮンさんは答えて、剣を身構えた。


「カスガくん、もう、大丈夫。私たち、頑張る」


 玄女がいった。


 拒絶の力はもういいらしい。


「うん、わかった」


 正直助かった。

 意識に働きかけて人を遠ざけるよりも、体に直接働きかけて遠ざける方が遥かに集中と体力が要る。死人には人間的な意識が無いから、力業で押し止めるしかなくて、結構ツラかったんだよね。しかもこれだけの範囲だし。


 玄女とクヮンさんも死人討伐に参戦して、次々と倒していく。

 しかしこの死人たち、ちょっと前までは普通に生きて、この船に乗っていたお客たち、あるいは船員さんたちなんだよな。

 それが無理矢理不死の法に感染させられ、お互いに肉を喰い合って、こんな姿になってしまった。挙句の果てに、棒切れのようにばったばったと薙ぎ倒され、殴られ、斬られ、焼き尽くされていくなんて。


 無念だろうに。


 到底許されるものじゃない。

 だけどオレは、この船上の惨劇を、拳を握り締め、歯を食いしばり、顔を歪めて見据えることしか出来ない。


「なかなかいい仕事するじゃねーか」


 突然耳元で強烈な悪臭と共に男の声がした。

 振り向くことすらままならず、緊張で体が硬直する。


「このままお前の首を喰い千切って終わりだ」


 首筋に、冷たく臭い息が吹きかかるのを感じた。


 

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