第34話 死人を狩る者たち(不老不死探偵の助手 其の拾弐)
トキジクさんに“クヮン”と呼ばれた支那風の長衣を着た男の人が、オレを椅子の緊縛から解いてくれた。
『あろがとう』
「どういたしまして」
オレが支那語で感謝を伝えると、クヮンさんは皇国語で答えた。
『さて』
クヮンさんはそう呟き、前方を見据える。
そこでは師匠と玄女がラスプーチンと対峙していた。
オレはそれをぼんやりと見ている。
クソ、まだ阿片の効果が残ってるんだ。
すると急に、クヮンさんが警戒の声を発した。
「きをつけろ、これは・・・」
その警告で辺り見てみれば、周りでうずくまっていた阿片中毒者たちが、蠢きだし、オレたちのところに近づこうとしていた。
うわ、こいつら。
『トキジク!』
クヮンさんが師匠の名を叫んだ。
師匠は丁度、玄女と一緒にラスプーチンの部下を倒したところだった。
クヮンさんに呼ばれて振り向いた師匠は、オレたちの状況を悟って、こちらに来ようとした。だけどそれを玄女に止められた。
師匠は一瞬をオレを見た。
オレも、目で合図を送った。
こっちはいいから、逃げたラスプーチンを追ってくれ。
師匠は了解した顔をして、この建物から出て行った。
とはいうものの、オレは未だ拒絶の能力が使えない。
それを知ってか知らずか、クヮンさんはオレを庇うようにして身構えた。
「うごかないで。ボクがまもる」
クヮンさんは懐から取り出した何枚もの銅銭を中空に投げ広げると、それが一本の剣に変化した。
「カスガくんに手を出すなぁぁぁ!」
そこに恥ずかしい雄叫びを上げながら、玄女が突っ込んできた。
『導引虎の構え、合わせ五雷指!』
玄女が大きく両足を踏ん張り身構え、深く呼吸すると、金属の拳鍔を付けた両拳が火花のような雷を放ち始めた。
『破ッ』
気合を吐いた次の瞬間、獣のような動きで間合いを詰め、阿片中毒者の一人をその雷の拳で殴りつけた。
バチッ、という炸裂音と共に、阿片中毒者は大きく吹き飛び、殴られた頭は煙を上げ黒焦げになっていた。
『光さん、こいつらは既に感染している!』
玄女は叫んだ。
言葉はわからないけど、なんとなく意味は伝わってきた。
だって、いま殴られて頭消炭になった奴は、体だけビクビクと痙攣させ、まだまだ動き出しそうな様子だったからだ。
もう不死の法に犯されていたんだ。
『哀れなる死人たちよ、せめて僕が引導を渡してやろう。四神よ、鬼賊を避け除け、急急如律令!』
クヮンさんが唱え剣で切りつけると、阿片中毒死人の体は青い炎を上げ、焼け爛れていった。
『我が刀身は屍の呪いを焼き尽くす!』
玄女は雷火を帯びた鉄拳で次々と死人を殴りつけ、クヮンさんの剣で切られた死人は皆、青い炎で焼き尽くされていった。
この二人、凄い。
相手が阿片中毒の死人でも、この数をあっと言う間に片付けてしまった。
「カスガくん、無事か?」
死人を一掃した玄女が、心配そうな顔をして近寄ってきた。
「だ、大丈夫だよ、これくらい」
オレは玄女が差し伸べて手を払い、立ち上がろうとしたけど、足元が覚束なかった。
玄女はすかさずオレの体を支えた。
「ちょっと阿片が効いただけさ」
「ん、なんだと⁉ カスガくんに阿片を⁉ なんとゴクアクな‼」
玄女は本気で怒っているようだった。
『光さん、解毒の呪符はあるか?』
玄女はクヮンさんからお札を受け取ると、オレの額に貼り付けた。
「これで、よくなる」
確かに、頭がスッキリして、ふわついた感覚が消えていく。
「あ、ありがとう」
オレは精一杯感情を押し殺して、礼をいった。
「か、か、カスガくん」
「ん?」
「かか、カワイイ!」
玄女は突然、感極まった声を出して抱き着いてきた。
「のわ、なんだよ、放せコラ!」
『玄女さん! 今は遊んでいる場合ではないですよ!』
クヮンさんが、ちょっと興奮気味にいった。
『は、そうだった。トキジクを追わねば』
玄女はすくっと立ち上がり、オレの手を握っていった。
「さぁ、行こう! 君の想い人を追って!」
こいつ、なにいってんだ?
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