第33話  船上パーティーへ御招待

 おい待てこのプッチン野郎。

 俺はラスプーチンを追って、開けっ放しの倉庫の扉から外に出た。


 うぉ、眩しい。


 額に手をかざして、辺りを窺う。

 目の前には大きな蒸気旅客船が停泊していた。

 そのタラップをラスプーチンが駆け上がっているのが見えた。


 ここは港だったのか。

 あの船で逃げようってのか? 袋の鼠じゃねーか。


 俺も船に乗り込むため、駆け出した。

 タラップの階段を上っている間に、汽笛が響き渡った。


 え、ちょ、出発すんの?


 急いでタラップを駆け上がったが、船が動く気配は無い。


 なんだよ、脅かすなよ。


 船上デッキへ着いた俺は、用心しながら船首へ向かった。

 なんだろう、この違和感は。

 船は煙突から煙を吐き出してはいるが、静かなものだ。

 そこで俺はハタと気付く。


 そうか、客船なのに客の姿がどこにも見当たらないんだ。


 どういうことだろう。

 警戒を怠らず、二階のデッキへ上がる。

 初春の風はまだ冷たい。

 陽光降り注ぐ広々とした二階デッキの中央辺りまで来た。


 そろそろ中に這入ってみるか。


 そう考えた矢先、船内へと通じるドアが開いた。

 お、人がいた。

 と思ったら、どうも様子がおかしい。

 洋装だったり和装だったり、男女入り乱れ、船客らしきが、よたよたとデッキへ出てくる。

 皆、表情が無く、むしろ虚ろな顔。よく見れば服装は乱れ、腕や首や顔から血を流している。


 噛まれたんだ‼


 中にはあからさまに肉体が損壊している者もいる。

 既に生ける屍、歩く死体になっていた。


 ベスプッチ(ラスプーチンの意)め、まさかこの船の乗員全員・・・。


 ハッとして振り返れば、下のデッキからも、階段を上って屍たちがゾロゾロと集まってきていた。


 囲まれたか。やってくれるぜ。

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