第30話 不老不死探偵の助手 其の拾壱
以前にも一度あったんだ。
あんな風に昔の人格が表に出てきたことが。
オレがヘマやって、人攫いの奴らに捕まったときも、トキジクさんは単身乗り込んできて、全員皆殺しにして組織を壊滅させてしまった。
人でも人外でもばっさばっさと切り捨て、千切り捨て、辺りは血の海、肉片の山、トキジクさんは返り血で全身染まっていた。正に魔王の様相だった。
警察からは容疑者扱いはされなかったけど、運が悪ければ追われる身になっていた。
だけどトキジクさんが人として生まれた数百年前は、そういうことが当たり前の時代だったらしい。
人を簡単に殺し、そして殺され、奪い奪われ、血で血を争う戦争の時代。
トキジクさんが、いつかこんなことをいっていた。
「三つ子の魂百までとはよくいったもんだぜ。まぁ優に百は超えてるが、それでも俺がまだ生身の人間だった頃に焼き付いた気性は、なかなか治まらねぇや」
四百年以上生きているトキジクさんの心は、いったいどんなものなんだろう。
たかだか十五、六年生きただけのオレには、想像もつかない。
受け入れることも、受け入れてもらうことも、無駄で無理なのかな・・・。
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「・・・お前に否定されても、拒絶されても、関係無いことだ」
トキジクさんはオレの目を間近で見据え、いい放った。
そして顔を近付ける。
はぁ? 関係無いだって? 今更?
急に怒りが湧いてきた。もうほとんど爆発だった。
オレは思いっきり頭を振り、足を踏ん張って拘束されている椅子ごと立ち上がって、師匠の額に頭突きを喰らわせてやった。
「うがっ!」
「関係無いだって⁉ あんたに無くてもオレには大有りだ‼ そんな簡単に今までのことを無かったことになんて出来ないからな‼ させないからな‼ オレの気持ち無視してんじゃねーよ‼ このバカ師匠‼ 四百年生きてるなら、バカくらい直せ!」
トキジクさんは、額を手で押さえて、二三歩後ろに退った。
『おい、トキジク。お前がやらないなら、私がトドメをさすぞ』
玄女が、胸を銃で撃たれても尚、立ち上がってきた男を警戒していった。
確かに、胸から血を大量に流していながら、男はトキジクさんの側に来ようとしていた。
「痛ぇな畜生このクソガキがぁぁ!」
迫り来る負傷した男に気を取られていたオレの頭をムンズと掴み、叫んだトキジクさんは体を仰け反らせた。
勢いを付けて頭突きのお返しかと、オレは思わず目をぎゅっと瞑った。
・・・あれ? 強烈な衝撃と痛みに備えていた額に、予想に反して柔らかく熱いなにかが触れた、気がした。
「おっし、エナジーチャージは済んだ」
トキジクさんはもうオレに背を向けていた。
は? え? エナジーチャージってなんだよ?
『もうそこに居るぞ』
玄女が鋭く警告した。
「斬!」
トキジクさんは一瞬でその手に刀を出現させ、甦ってきた男の首を刎ねた。
流れ落ちる鮮血。
もっと噴き上がるのかと思っていた。
『アメリカでブードゥー上がりのゾンビとヤッタことがあるんだ。処理の仕方はこれでいいんだろ?』
『そう。とにかく』
玄女の応えを遮って、トキジクさんがいった。
『とにかく頭をぶっ潰す、だな。さて、親玉のラスタマンだかムチムチプリンだかはどこだ?』
し、師匠、全然違う。
ラスプーチンだから。
ていうか、元のバカに戻ったみたい。
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