第26話  時には真剣な顔をして

 俺と玄女と李光は、朝一番の汽車で横浜から東京へ向かった。


 途中ずっと光は、『僕は東京の領事館に戻るついでに同行しているだけだからな!』と繰り返していた。


『あぁはいはいわかってるよ、何度も言うなうるせーな』

『いいや、君は全然わかってない!』

『俺がわかってるっつってんだから、わかってんだよ!』

『それにお祖父さんにいわれてだな!』

『もういいわ!』


 そんなやり取りをしていたら、新橋に到着した。

 やれやれ、面倒な奴がまた増えたな。

 駅からは市電と徒歩で神保町へ向かった。

 そいや結局一泊しちまったけど、春日むくれてねぇかな。

 ま、二日酔いしてないだけ、マシだと思ってくれ。


『さぁ、着いたぜ』


 俺は光に対していった。

 あれ、店がまだ開いてねぇな。

 春日の奴、寝坊か? 出掛けてんのか?


『ほう、君にしてはなかなかの構えの店じゃないか』


 いつの間にか俺のこと「君」呼ばわりになっている。昨日は「おまえ」だったのに。君にしては、って俺のことどんだけ知ってんだよ会ったばかりじゃねーか。


『で? ここに玄女さんと一緒に住んでいるのか?』

『なんか誤解を招くいい方だな。ていうかおまえ清の領事館に行かなくていいのかよ』

『いやいやいや、折角だから君たちの住居を一目見たくてね』

『君たちの、じゃねぇ。俺の住居だ。玄女は只の居候』

『そうだ。我々は一つ屋根の下に暮らし、共に寝起きしている』


 玄女がいった。


『ややこしくなるからおまえは喋るな』

『君こそ、いい方が失礼だぞ』


 今度は光がいった。


『ああもう、うるせぇうるせぇ』


 俺はわめきながら、骨董屋正面の引き戸を開けた。

 すると、ひらりと一枚の紙が地面に舞い落ちた。

 なんだぁ、コレ。

 一応、なにかの術が施されていないか確認してから、二つ折りの紙を開いた。


 俺が異様に黙っているから、玄女が声を掛けてきた。


『どうした? トキジク』

『・・・俺への熱烈な恋文だな』

『なんだと? 玄女さんという相手がいながら!』

『ちょっと黙ってろ』


 かなりキツイ口調になったので、光は異変を察して直ぐにだまった。


『春日が拉致された』


 俺は紙を玄女に渡した。

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