第25話  不老不死探偵の助手 其の九

「どうも初めまして、少年」


 ランタンの灯りで黒い姿が浮かび上がるラスプーチンは、オレを見下ろしていた。

 黒髪に長い山羊髭、黒い瞳に黒衣の黒ずくめのロシア人。


「はぁ? 誰だよあんた」


 まとまらない頭を働かせ、精一杯威勢を張ってやる。


「・・・うん、まぁどうでもいいんだが、こちらは手短に話をさせてもらう。実を言うと、君たちの行動は、少し前から監視していたんだよ」


 え、本当かよ。

 正直驚いたけど、動揺は出来るだけ見せないようにする。


「派手に探し回っていたではないか、金華秘書を。なので我々は君たちが見つけた場合、先回りして手に入れる算段を付けていたのだ」

「へぇ、寒い国からわざわざやって来て、やることはセコイ横取りかよ」


 漆黒の目が、一瞬泥のように濁った。


「・・・少年はもしかして、私に遊んで欲しいのかね?」


 その目、その声、その言葉に、怖気が走った。


「残念ながら、そんなに暇ではない。速やかに国へ手に入れたものを届けなければならないのでね。ああ、実に残念だ。こんなに可愛がり甲斐のある少年がここにいるのに。まぁ君はここで阿片に溺れて幸せになりたまえ」


 そうか、この臭気は阿片だったのか。どうりで頭が回らない訳だ。

 ラスプーチンは名残惜しそうに、向きを替え、出口へ向かうとした。

 まずい、あいつをこのまま帰してしまったら、なにもかもが無駄になる。


「おい、あんた。その金華秘書は、不完全な不死の法しか書いてないって知ってるのかい?」


 オレはラスプーチンの背中に声を掛けた。


「ああ、知っているとも。不完全だからこそ、欲したのだよ」


 はぁ? どういうこった、全然意味わかんねーよ。だけど止まるな考えるな、理解する前に喋り続けろ。


「へー、だったらいいんだけどさぁ。せっかくなら、完全な不死の法を、知りたくないか?」

「どうしたんだ? もう阿片にやられたか?」

「別に興味無いならしかたないね。オレたちを見張ってたなら知ってるだろ? オレの師匠の探偵をさ。あいつは完全な不老不死で、その方法をしっているんだぜ」


 ラスプーチンはしばらく思案気に黙っていた。


「自暴自棄のでまかせか?」

「そんなんじゃねーよ。ホントの話さ。もう四百年生きてるっていってたぜ」

「確かに・・・彼のことは噂にはなっていた。面白い、試してみよう。おまえを餌におびき出す。もし嘘だったなら、目の前で生きたまま八つ裂きにしてやろう。どっちに転んでも見ものだな」


 ラスプーチンは厭らしい笑みを浮かべた。

 え、待って。オレを餌に、師匠をおびき寄せるだって?


「おい、やめろ、そんなこと!」

「ふふふ、後悔しても遅い。自業自得だよ。礼でもいっておこうかな、楽しみを増やしてくれたんだから。それまで眠っていろ」


 ラスプーチンは相変わらず厭な笑みを貼り付けたまま、踵を返した。

 ちょいちょいちょい、なんか偉いことになりそうだぞ。本気でやめとけって。

 ラスプーチンを引き留めるために声を出そうとしたとき、従者のように連れ立ってきていた男が、オレの額にお札みたいな物を貼った。


 途端に、オレの意識が事切れた。

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