第24話  不老不死探偵の助手 其の八

 なにか、怖ろしいことが起こった。

 最悪なことだ。

 嫌だと思うすべてのことがいっぺんに降りかかってきた。

 オレは喉に砂でも詰め込まれたのかと思う程の苦しさを押し退けて、吐き出すように拒絶の叫び声を上げた。


 ハァハァと肩を上下させて息を吐きながら、目が覚めた。

 冷たい汗で着物も袴もぐっしょりと濡れていた。


 なんだ? ここはどこだ?

 オレはなにをしているんだ?


 考えようとしても、頭の中を掻き回されているみたいで、まともに出来なかった。


 どうなってんだ? 

 気が付けば手首が痛い。


 後ろ手に・・・縛られている?


 オレは椅子に座らされて、俯いた姿勢だ。

 さっきから甘いような酸っぱいような、妙なお香の匂いが、むせるほどに充満している。

 また繰り返し考える。


 ここはどこだ? 


 ぼんやりしたまま、頭を上げた。

 薄暗くて、よくわからない。

 広い、部屋? にしては広過ぎるような。

 そして、なんだか蒸し暑い。不快なくらいに。

 様子をうかがってみると、なにかの気配がすることに気付く。

 しかも、周りのそこらじゅうから感じられるのだ。


 暗がりの目を凝らして見れば、どうやら大勢の人らしきものたちが、辺り一面の床に横たわっているらしい。

 全く訳のわからない異常な場所に自分が居るということに、ゾクリと恐怖を覚えた。


 いったいここはなんなんだ?


 次第に吐き気すら覚え、また俯いた。


 すると突然、この広い空間の奥のほうから、金属を引きずるような音が聞こえてきた。

 引き戸が開けられたらしい。

 誰かが這入ってきて、こちらに向かってくるようだ。

 独りではない、数人が、オレの目の前で歩みを止めた。


『気分はどうだね?』


 何語だ? ぜんぜんわかんねー。


「顔を上げたまえ」


 今度は日本語で話しかけてきた。

 オレは苦労しながら、上体を起こしたが、暗くてほとんど見えない。

 男が何事か喋ると、後ろに立つ誰かが、ランタンに火を灯した。

 こ、こいつは・・・。


「どうも初めまして、少年」


 長い黒髪に髭、虚無のような暗黒の瞳にランタンの炎を映す、黒衣のロシア人、ラスプーチンだった。

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