第22話  商売道具を仕入れよう

『そろそろ夕飯にしようか』


 雲爺さんの一言で、決定した。


『では、支度をしてきます』


 光はそういって席を立った。


『え、もしかしてアイツが作るの?』


 俺は爺さんに訊いた。


『なかなかの腕前じゃぞ』

『へー意外。しかし・・・』


 料理の腕前っていったらウチの春日だって負けて・・・。


『ん? しかし、なんだ?』

『いんや、なんでもねぇよ』


 わざわざここで春日を褒めても仕方ねーよな。

 それにしても春日の奴、ちゃんと大人しくしてっかなぁ。


『うん、春日くんの料理は美味いぞ』


 隣の玄女が笑顔でいってきた。


『あーそうかよ』


 折角言葉飲み込んだのに、台無しじゃねーか。


『お前は食うことしか頭にねーのか』

『それに、春日くんはいい奴だ』

 

 玄女の判断基準は、飯が美味いかどうかなのかな。


『まぁいいや、飯出来るの待ってる間に、商売道具の仕入れしとこうかな』


 ここに来た目的其の二、新しい術式や呪具を買う。


『そうだ。爺さんの孫が靴裏に貼ってた呪符も欲しいな。あれ、脚力増幅だろ?』

『ありゃ、あいつの自前じゃぞ』

『でも、似たようなのあるんだろ?』


 雲爺さんは頷いて、古びた箪笥の抽斗から呪符の束を出してきた。


『そういや玄女さぁ、お前のあの動きはなんなんだ? 術を使ってんのか?』


 爺さんの仕事部屋に溢れる物をいろいろ見て回っている玄女に訊いた。

 術だけではない、独特な動きで、玄女は常人以上の脚力を出しているように見えた。


『あれは、禹歩だ』

『ウホ? ああ、支那の伝説の王、禹か』

『そう。彼が編み出したという、特別な歩行法だ。呪言と併用することで、速く動いたり、身を守ったりといろいろ使えるのだ』

『便利なもんだなぁ。今度俺にも教えてくれよ』

『一朝一夕で出来るものではないぞ』

『そこをなんとか。俺、時間だけは余ってんだよね』


 玄女はやれやれ、と苦笑した。


『玄女さんは、禹歩が使えるのか?』


 突然、雲爺さんが興味を示した。


『はい、まぁ、少し齧った程度ですが』


 玄女はどこか歯切れの悪い返答をした。


『そうか』


 爺さんも、曖昧な反応だった。


『それにしても、腹が減ったな!』


 玄女は急にいい出した。

 あからさまな誤魔化し方だな。


『さっき胡麻団子五個も食ったろ』

『そうだったな』


 玄女は明るく笑った。


『お前は食い過ぎなんだよ』

 前々から思ってはいたが、玄女の人となりって、あんまり知らないんだよな。

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