第21話  不死人の乱

『この術のもっとも怖ろしいところは、その不完全な不死性と凶暴性ではなく、それらが伝染するところなのだ』


 沈みかけの夕日を浴びながら、玄女は語った。


『ちょっと待った。その話、長くなりそうなら、下でしようぜ。雲爺さんにも聞いてもらいたいし』


 俺の提案に、光もしぶしぶ同意した。


 階下に下りて、雲爺さんの仕事部屋に戻った。

 爺さんは机の上を片付け(といっても机の隅に物を退けただけだが)、パイプをくゆらせていた。


『まぁ茶で飲みながらゆっくりせい』


 それぞれ席に着き、俺は良い香りのするお茶と胡麻団子をいただいた。

 ようやく落ち着くと、玄女は雲爺さんに聞かせるように、もう一度義和団事変のあらましを語った。


『ふむ、なんとも厄介な呪法じゃのう。しかし、心当たりが無い訳ではない』


 雲爺さんは茶を啜りながらいった。


『本当ですか、それは』


 光は立ち上がらんばかりの勢いでいった。


『確証はないが、恐らくその呪法は、過去幾度と無く、大陸を席巻し、時の国家を苦しめ、あるいは滅亡の原因となってきたものかもしらん』

『随分と大きく出たじゃねーか、爺さん』


 俺は二個目の胡麻団子を口に放り込んだ。

 

『連綿と受け継がれてきた伝説じゃよ。赤眉の乱、黄巾の乱、黄巣の乱、紅巾の乱、大陸の乱の影に不死の軍団有り、とな』


 机を囲んだ皆が、黙り込んでしまった。

 なんだよソレ、とんでもねーデカイ山じゃねーか。

 支那の叛乱は、常にとんでもない数の人間が死ぬ。


『鼠のように増え続け、人を喰らい尽くす不死のモノ共。国は滅び、地に満ちた不死の亡者を殲滅できた者が、新たな天下人となる。そうやって大陸の帝国は勃興してきた』

『本当かよ』


 俺はぼやいた。

 にわかには信じられねーが、アリそうだとも思えてくる。


『そして不死の亡者共を、狩り滅ぼす者たちもいるという。いつの時代も、不死者が溢れるときに、どこからともなく現れると。亡者狩りを生業とする者たちなのか、それとも・・・。なぁ、玄女さん。そんな話は聞いたことはないかの』

 突然爺さんは玄女に話を振った。

『まぁ、飽くまで伝説の域を出ないものだがね』


 しかしその伝説の一端が、義和団事変で真実だと確認された訳だが・・・。


 玄女はしばらく沈黙した後、口を開いた。


『いずれにせよ、金華秘書を一刻も早く探し出さねばならない。取り返しのつかない間違いが起こる前に』

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