第20話  不老不死探偵の助手 其の七

 目の前にはラスプーチンが乗る馬車が停まっている。

 オレはまた重力を拒絶して、ふわりと飛び上がり、箱馬車の上に音も無く降り立った。


 よし、あとは周囲からの視線を遮っていれば安泰安泰、見失うこともない。


 馬車は直ぐに走り出した。

 しばらく馬車の上で揺られるだけ。

 神田川沿いを走っていく。

 だけど拒絶の集中は絶やせない。

 そうだ、集中、集中・・・。


 ハッと気がつけば、馬車が停止した。


 ここは秋葉原辺り。

 馬車からラスプーチンと連れの男が降り、今度は神田川の岸辺へと下っていく。

 どうやら護岸に係留されている、小さな蒸気船に乗りかえるらしい。


 くそ、ここまできて諦める訳にはいかねぇ。


 オレは空になった馬車が走り出す前に、気配を消し、そっと地面に降りる。

 そして慎重に蒸気船に近づき、また船の屋根に乗った。

 間もなく船は黒い煙を吐いて出発した。


 既に辺りは暗い。

 これだったら視線の拒絶をしなくても、目立たないだろう。

 ふっと力を抜いたら、急に疲労が重くのしかかってきた。

 こんなに長く拒絶の力を使ったのは初めてだった。しかも並列使用。

 これはそうとう体力精神力削られるな。

 オレは蒸気船の屋根の上で仰向けになった。


 畜生、三月の星空は綺麗だけど、寒くていけねーや。

 しかしこいつらどこまで行くつもりだ?

 だいたいラスプーチンって、ロシア人なんだっけ?

 どういう目的で金華秘書を求めたのか。

 まぁどうせ、ろくな使い道はしねーと思うけどな。


 ん? どこからか甘いお香みたいな匂いが漂ってくるなぁ。菓子屋の近くでも通っているのかな? それよりも、なんだか気持ちよくなってきた。このまま目を瞑って寝てしまおうか。

 そうだ、どうせ船が停まれば目を覚ますだろう。ああ、ものすごく眠いや・・・。

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