第18話 不老不死探偵の助手 其の伍
え、なになになになにナンデすと?
金華秘書を買い取りたい人が来た?
いや、まてまてまてまてドウすんの?
オレはまだ持ち主の孝雄さんと話すらしてないのに、既に交渉成立してんの?
当の孝雄さんは、あやめちゃんが眠っていた部屋へ着替えに行った。
恵子さんは客間へと買取人を案内している様子。
とりあえず誰にも気付かれないように気配を消し、庭に出て客間を外から覗くことにした。
ちなみに“気付かれないように気配を消す”とは、オレは異能持ちで、拒絶の力があるのだ。それで他人の視線を拒絶して、一時的に誰からも見つからないようにした。
草むしりのときにも借りた下田家の庭用雪駄を履いて、外に出る。
客間の座布団の上に胡座を掻いているのは、なんと二人の外国人だった。
こりゃまた意外だなぁ、しかも白人だ。
いったいどうやって金華秘書のことを知り得たのか。
両方とも青白い顔をしている。
一人は厳つい体でツイードの上着を着ている。
もう一人は長い黒髪に髭もじゃ。黒い長衣で首から十字架をぶら下げている。宣教師や僧侶の類だろうか。
見た感じ長髪の男の方が主客らしい。
どこか不敵な笑みを浮かべた軽薄そうな表情なのに、落ち窪んだ目だけがギラギラしてやがる。
こいつはかなり危ない感じだ。
そこへ眼鏡をした着物姿の男の人が這入ってきた。
どうやらこの人が下田家の主、孝雄さんらしい。
手には古めかしい冊子のような物があった。
あれが金華秘書なのか⁉
孝雄さんはその冊子を机の上に置き、僧侶が手に取った。
残念ながら声までは聞こえないが、僧侶は満足気に言葉を発し、連れの厳つい男が懐から数枚のお札を孝雄さんに渡した。
こ、こ、これは、交渉成立ってやつか?
外国人の二人は立ち上がり、そそくさと部屋を出て行った。
オレも慌てて茶の間に戻った。
そこには恵子さんが居た。
「あ、春日君、そんなところに」
「申し訳ありません。大変失礼だとは思ったのですが、どうしても成り行きが気になってしまって・・・」
「謝るのはこちらの方です。ごめんなさい。春日君が先にいらっしゃったのに・・・」
オレが謝る恵子さんを止めようとすると、襖が開いて、孝雄さんが這入ってきた。
「君が児屋根春日君か。妻から話は聞いたんだが、どうにもタイミングが悪かったというか、彼らは物凄く急いでいて、今譲ってくれるなら、相当の謝礼を払うと・・・。本当に申し訳ない」
孝雄さんは頭を下げた。
「いや、そんな謝らないでください。こんなよくわからない子供が、譲ってくださいなんて押しかける方がどうかしているんですから」
そうだよ。どうしたってオレはなんの信用も無い子供だ。
今すぐあんな大金払える訳も無い。
戦争に駆り出され、子供も生まれて、下田家は何かとお金が入用なんだ。
堅実に働いて一所懸命生きている一般家庭の人たちなんだ。
裏家業で闇の中で生きてるオレたちとは違う。
「あの、いろいろありがとうございました」
オレはそう言い残して部屋を出た。
「春日君」玄関で草履を履くオレに、恵子さんはあやめちゃんを抱っこしながら声を掛けた。「おにぎり、とてもおいしかったわ」
オレは精一杯はにかんで笑い、深く頭を下げた。
「僕からも一つ」孝雄さんも口を開いた。「冊子を求めていた彼はロシアの人で、グリゴリー・ラスプーチンと名乗っていた。一応、伝えておくべきか思って」
「ありがとうございます」
当ても無く、それでも急いでオレは駆け出した。
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