第16話  不老不死探偵の助手 其の参

 はいはいはい、児屋根春日っす。

 ようやく師匠と玄女のアホ二人組が横浜へ出発しました。

 そりゃオレも一緒に行きたかったよ? 汽車乗ってさ。大陸の料理食ってさ。トキジクさんと・・・。


 いやいや、今はいい、我慢我慢。

 オレには一刻も早く金華秘書を捜し出して、玄女をここから追い出すというやるべきことがあるのだ。

 そのためにも、今日もせっせとビラを刷り、配り歩くぜ。


 骨董屋の奥でビラを鞄に詰め込んでいると、表から呼ぶ声が聞こえた。

 どうやらお客さんらしい。


「へい、いらっしゃい。どういった物をお探しで?」

「やあ、春日君。このビラ配ってるのは、君かい?」


 お、誰かと思ったら貸本屋の本多さんだ。


「そうっす。オレが配ってたんですが、なにか?」

「いやね、ウチの常連さんが、このビラに書かれてる本知ってるっていうもんだからさ」

「え、本当っすか⁉ それはどこの誰⁉ 教えてください‼」


 という訳でとうとう有力な情報を手に入れました。

 これもうオレ一人の手柄だよね。


 本多さんの話を頼りに、市電を乗り継いで神楽町までやってきた。

 さてここから有名な神楽坂を上って、早稲田方面へ歩き、山吹町辺りの・・・っと、ここか。

 ようやく金華秘書を知る人の家に辿り着いた。

 緑の葉が生い茂る生垣に囲まれた木造の平屋。


「ごめん下さ~い」


 オレはガラスが嵌った格子の引き戸を叩いた。


「は~い」


 玄関を開けてくれたのは、背中に赤ん坊をおぶった女の人だった。


「どちらさんでしょう?」


 なるべく簡単に、且つ正直に自己紹介と目的を伝えた。


「あら、お若いのに熱心ですねぇ。でも主人は今仕事に行ってまして、夕方には帰って来ると思うんですが」


 そうか、世の大人たちは仕事に出掛けているんだ!

 ウチに師匠みたいに探偵稼業なんてやってる大人とは違うんだ!

 加えて自営業だから、失念していた。


「それじゃ、また出直してきます」

「あら、上がって待っていて下さい。お茶出しますよ。もう直ぐ昼ごはんの支度も出来ますので、召し上がって下さい」

「いやいや、そんなことは」


 慌てて申し出を断ると、彼女の背中におんぶされた赤ん坊がぐずり始めた。


「あらあらあら、どうしたの? おしめ?」


 赤ん坊を必死にあやす母親。

 どうやら女中さんもいないらしく、彼女が独りでこの家のことを切り盛りしているらしい。


「あの、オレ、昼の支度しますんで、赤ちゃんのお世話していて下さい」


 体が勝手に動いていた。

 履き物を脱いで、もう勝手に上がり込んでいる。


「え、あの」


 驚きと戸惑う母親をいなして、オレはいった。


「大丈夫です。こういうの毎日やってるから慣れてますんで。厨はこっちですか?」

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