第15話  不死団

『義和団殲滅作戦はあまりにおぞましく、それを実行した八ヶ国連合によって顛末を封印されたのだ』


 玄女は神妙な面持ちで語った。


 随分とおっかねー話になってきたじゃねーか、おい。


『それは俺も前から気になってたんだけどさ、そんな大事になったのは、つまりあんたが捜してる金華秘書が原因ってことになるんだろ?』

『なんなんだ? さっきから、その金華秘書とは』


 光が訊いてきた。


『え、なに? 知りたい? 部外者のクセに、仲間内に入りたいの?』

『いいから教えろ。叩き切るぞ』


 光は俺に切っ先を向けた。


 お、え、ほー、ヤルの、この俺様とヤンのかゴラァ、ああん?

 いつでもヤッてやんよ、こいド腐れ野郎、おお?

 俺の大人の玩具で昇天させたろか?


『金華秘書には、不死の法が書き記されていた。しかしそれは偽りの法だった。不完全であり、いや、もしかしたら、あれはあれで完全なものだったのかもしれない。恐ろしく悪意が込められた不死の法』

『むしろ恐ろしく曖昧なものいいで、まったく意味わからないんだが』


 俺は痺れを切らせていった。


『悪い、当時のことを思い出していた』玄女はかぶりを振った。『北京にまで押し寄せた義和団勢力に対し、列強八ヶ国連合軍は北京を包囲し、進攻を開始した。義和団勢力内には、各地から合流した数多の道士や巫術師や宗教者がいた。それぞれが呪符や憑依や幻術などを使っていた。その中の誰かが、金華秘書を持ち出し、不死の体を与えるとして施術を行ったのだ。いつ、誰が、やったのかは定かではない。北京、そして紫禁城に籠城していた義和団勢は、皆混乱し切羽詰まって、状況は混沌を極めていた。ただ噂話のように金華秘書と不死の法の事が広まり、やがて義和団勢力の皆が、秘術は既に施されたんだと気付かされた。地獄の蓋が開かれたのだ』

『だからもったいぶるなよ』

『話の腰を折るな。黙って聞け』


 光が俺に向かっていった。


『ああん?』

『すまんな。一応これは極秘事項なんだよ』躊躇いがちに玄女はいった。『始めは、よく出来た肉体強化の術に見えた。力が著しく増し、殴られても、刃物で刺されても、銃で撃たれても、平気なようだった。しかしそれは間違いだった。体を傷付けられても、損傷が回復する訳ではなかった。痛みを感じず、傷付いても体を動かすことが出来た。しかも肉体が損傷すればするほど、力が増し、理性が薄らぎ、恐怖も無く、より凶暴になり、人を誰彼構わずに襲うようになった。骨が折れ、手足が千切れ、銃で撃たれ、刃物で腹を切り裂かれても、死なずに暴れまわり、最終的に人の肉を求め貪り食らうようになる。そして更に恐ろしいのは、この術が、他人に伝染することなのだ』

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